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 戊辰戦争さなかの新発田を舞台に、戦いへ赴かざるを得ない罪人たちを描いた『十一人の賊軍』が公開された。昭和の時代に脚本家の笠原和夫が書いたプロットを原案に、集団抗争時代劇を現代によみがえらせた白石和彌監督は、戦場における罪人たちの心情を丁寧に掬い取った。
「罪人たちは無罪放免を条件に新発田藩の砦で新政府軍と戦うことになります。生死をかけたギリギリの戦場ではあるんだけど、彼らにとっては生活の場でもあるので、たとえば博打を打ったり、飯を食ったり、笑ったりもする。そういう両面を描きたいなと思っていました。それにみんな罪人なので、最初は気持ちが一つじゃないんです。全員が一つの目的のために動くわけじゃない。そこは他の集団抗争時代劇と違う、この映画の面白いところかなと」
 劇中では、山田孝之演じる駕籠屋の政と、仲野太賀演じる侍の鷲尾兵士郎が中心となって物語を動かしていく。
「政は主人公ではあるんだけど、すぐに騙して逃げたり、自分だけ助かろうとしたりします。でも、彼の中には女房に会いたいという純粋で一途な気持ちも混在している。一方、罪人たちを取りまとめる兵士郎は、誰よりも国を守ろうという思いが強くて、新発田に尽くす人。僕の映画としては珍しいキャラクターで、政がいたからこそ生まれた人物というか、たぶん兵士郎一人だったら、ああいう性格にはしていないので」
 映画は江戸から明治に移り変わる侍の終わりの時代の話でもある。
「白虎隊もそうですけど、この時代の話ってヒロイックに描かれがちなんです。どうやって潔く散るか、みたいな。でもこの映画ではみんな平気で嘘をつくし、騙そうとする。侍であれ、清く正しく散っていくなんてことはない。いわばアンチヒーローの話でもあって、そこは映画を撮る上でのモチベーションにもなりました」
 描いたのは、戦争の本質的な部分だ。
「新発田藩は小藩で、地政学的にも奥羽越列藩同盟に入らざるを得なかったんですけど、藩の裏切りによって同盟は崩壊していくんですね。阿部サダヲさんの演じた新発田藩城代家老の溝口内匠もさまざまな策を弄した裏切り者ですが、でもそれは外から見た一方的な評価にすぎなくて、新発田の民衆にとってはやっぱり城下町を救った優秀な政治家なんですよ。戦争においては、よく“正義の反対は悪じゃなくて、もう一つの正義”と言われますけど、溝口内匠も単純に悪い奴と断罪することはできないわけです。そうしたシーンをちゃんと描いたからこそ、今につながる地続きの話なんだと感じてもらえると思います」
 撮影は2023年8月から11月にかけて、千葉の石切場跡を中心に慣行。撮影中に“崖っぷち”だと感じたことを尋ねてみた。
「もう全部です(笑)。もちろん橋のシーンとかアクションシーンとかは大変だったんですけど、そういう場面は気を張っているから、僕もみんなも頑張れちゃうんですよ。そうじゃなくて、例えば本丸とかに14~15人くらいがそろっていて、全員の動きを追わなければいけないシーンとかは非常にしんどかったです」
 大勢のキャストやスタッフを束ねる苦労は常につきまとう。
「僕も聖徳太子じゃないので、一度に全員の芝居をしっかりチェックすることができないんですよ。でもカットがかかると、その瞬間にみんなが一斉に僕を見るわけです。その中で直してほしいところをそれぞれ抽出して、指示して、ああして、こうして……って、僕の中ではそれがめちゃくちゃ崖っぷちでした(笑)。大人数が同時に芝居するのは大型時代劇ならではの醍醐味なんですけどね」
 改めて、『十一人の賊軍』はどんな映画になったのだろうか。
「戦争なので、人がたくさん死んでしまう話ではあるんですけど、ただ活劇エンターテイメントとして撮っているので、単純に楽しめる仕上がりになっています。最後はもともとの笠原さんの原案とは少し違う形にしていて、今の時代に伝えたいことを込めているので、そこも注目してほしいですね。あと“歴史は詳しくないので”と尻込みされる方もいるんですけど、この映画は歴史のことを何も知らなくても、だいたい何が起きているのかわかるようになっているので、その辺は気にせず観に来てほしいです。爽快とまでは言えないですけど、観終わった後にいつもより足取りが軽くなる、そんな映画になったと思います」
映画『十一人の賊軍』公開中
戊辰戦争の中、侍殺しの罪で捕まった政(山田)を筆頭とした罪人たちは、無罪放免を条件に、剣術道場の道場主である鷲尾兵士郎(仲野)らと共に新発田藩の要となる砦を守ることになる。監督:白石和彌、原案:笠原和夫、脚本:池上純哉、音楽:松隈ケンタ、出演:山田孝之、仲野太賀ほか
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(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会
白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『孤狼の血LEVEL2』『死刑にいたる病』『仮面ライダーBLACK SUN』『碁盤斬り』Netflixシリーズ「極悪女王」、プロデュース映画に『渇水』など。最新作の映画『十一人の賊軍』が公開中。
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