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 スクリーンの中でしか、経験できないことがある。5月6日公開の白石和彌監督による映画『死刑にいたる病』で、自身の演じる役が連続殺人鬼だとわかったとき、戸惑いと喜びを感じたという。
「白石監督とは『彼女がその名を知らない鳥たち』でご一緒させていただいて、またお仕事したいと思っていたんです。このお話をいただいたときに、まずお受けすることを決めて、そこから原作の小説を読んだので、なかなか驚きました。前回、“また面白いやつをやりたいですね”なんて言って終わった気がしたので、『麻雀放浪記2020』みたいな映画かなと勝手に思っていたんですけど、蓋を開けてみたら連続殺人鬼の話でした。ただ、自分から進んで立候補するような役ではないかもしれませんけど、こうした体験は役者じゃないとできませんから、お声をかけていただいて素直にうれしかったですし、すぐにやってみようと思いました」
 演じたのは、史上最悪の連続殺人鬼で死刑囚の榛村大和。岡田健史演じる大学生の筧井雅也に、24件の殺人容疑のうちの1件について、冤罪であることを証明してほしいと依頼する役どころだ。
 映画はアクリル板を挟んだ雅也との面会シーンが、見どころの一つ。
「面会シーンの撮影は1ヵ月ほどあった撮影期間のうち、最後の4日間くらいに凝縮されていて、来る日も来る日も岡田くんとそこだけを撮っていました。榛村は外で犯行を繰り返しているときよりも、捕まって拘置所にいるときのほうが底知れない感じがしたので、より力が入っていたかもしれません。面会シーンはシンプルなセットなんですけど、監督のアイデアが詰め込まれていて、かなりしびれましたね。面白かったです」
 完成した映画を観て、はじめて知ることもあった。
「岡田くんの演じる雅也が外の世界で何をしていたのか、僕は見ていないので、こんなことをしていたんだという気づきがありました。お客さんを引っ張っていってくれるというか、物語に没入させてくれるお芝居で、すごく良かったです」
 ハードな物語だが、撮影現場は意外にも和気あいあい。
「楽しい現場でした。シリアスなシーンの撮影でも、モニターを見ながら監督が笑っているときもありましたし。あと、監督がスタッフルームに生ビールサーバーを設置してくれて、そういう優しさも素敵だなと」
 もう一つ、白石監督に感謝していることがある。
「映画の冒頭に、榛村が自宅で紅茶を飲みながら、レコードをかけているシーンがあるんです。現場で音楽は流れていなかったんですけど、できあがったシーンの曲がとても良くて、すぐに監督に“この曲ください”とお願いしたら、実はオリジナルで、一から作ったとおっしゃっていて。そういったこだわりはさすがですし、曲を改めて聞いてみたら想像以上に素晴しくて、今もずっと聞いています」
 曲に関しては、こんなエピソードも。
「榛村を演じていたときに、脳内でずっと曲が流れていました。やたらとリピートしてしまう曲ってあるじゃないですか。日によって違いますが、ああいう感じで、ずっと。高校生をいたぶるときは『学園天国』でしたし、ビートルズや郷ひろみさんの曲も。今回、中山美穂さんともご一緒させていただいたのですが、中山さんとのシーンはもちろんご本人の楽曲が頭の中で流れていました」
 独特の方法で役にアプローチしながら、榛村大和という人物に視野を狭めていく。
「気持ちから入るのは難しい部分はありましたけど、例えば、学生時代に進級して後輩ができたときのうれしい感じとか、自分より上の先輩がいなくなったときの気持ちよさとか、そういった感情を思い出しながら演じていました。連続殺人鬼の気持ちはわからないですから」
映画『死刑にいたる病』
2022年5月6日(金)全国公開
大学生の筧井雅也は連続殺人鬼で死刑囚の榛村大和から手紙を受け取る。「罪は認めるが、9件目の事件は冤罪だ。犯人は他にいることを証明してほしい」。中学生の頃、榛村のパン屋に通っていた雅也は、その願いを聞き入れて事件を独自に調べ始める。
(配給:クロックワークス)
https://siy-movie.com/
(C)2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会
阿部サダヲ あべさだを 俳優。1970年生まれ、千葉県出身。1992年より大人計画に参加。同年に舞台『冬の皮』でデビュー。2008年に映画『舞妓Haaaan!!!』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞、2018年に映画『彼女がその名を知らない鳥たち』でブルーリボン賞主演男優賞を受賞。5月6日公開の映画『死刑にいたる病』に出演。
ヘアメイク/中山知美
スタイリング/チヨ(コラソン)
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