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 映画監督・三島有紀子の故郷である大阪・堂島を舞台にした映画『IMPERIAL大阪堂島出入橋』が、短編映画プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS Season2」の9作品のうちの一篇として2月18日に公開される。映画では、佐藤浩市扮する閉店したレストランの店主が、夜明け前の街を一人で歩く様子をワンカットで撮影している。
佐藤 僕は最初、三島さんに「これ成立しないよ」と言ったんです。
三島 おっしゃられていました。
佐藤 ワンカットで撮ること自体に問題はないんです。街を歩いていく中で、人物の背景が見えてこないといけない。ここが作品の命題だと思いましたし、かなり厳しい条件になるということはお伝えしました。ただ、実際にやってみたら、「映像結果論」というタイトルをつけてもいいくらい、さまざまなピースが埋まって成立していった。もちろん綿密な計算もあるんでしょうけど、そういった偶然を引き寄せるのも監督の力だし、三島さんの持っているものだったんだろうなと。それが未来にジョイントするんですよ。
三島 現場にいた全員の力だと思います。ありがとうございます。未来にジョイントする、いい言葉ですね。
三島 今回、店主の歩く姿を通して変わりゆく堂島の街を見せたいというのはありましたが、何より、浩市さんがおっしゃったように、長い歩きの中で彼の人生を感じてもらいたいという思いがあったので、どうしても止めずにワンカットで撮りたいと思いました。撮影前には、浩市さんが道順や信号の位置や交通量など、全てを教えてほしいとおっしゃって、細かく情報を書いた地図をお渡しし、実際にご自宅の近くで練習してお芝居を作り上げてきてくださったんです。映画の神様って、浩市さんのように、けっして手を抜かずに映画に真摯に向き合っている人間の現場に降りて来るんだなと強く思いました。
佐藤 朝4時からの本番一発勝負でしたから、どれだけ計算しても、計算通りにはいかないんですよ。考えた通りには絶対にならない。当然こっちはピリピリするし、もしうまくいかなかったら、そこには残念な関係性が待っている。逆に、できあがったものが良ければお互いの距離感が一気に埋まるんです。本当に残酷ですよ。今回、撮影も編集も全て終わって、映画が完成したときの三島さんの顔を見て、「ああ、うまくいったんだ」と確信しました。
三島 私の個人的な思いとしては、浩市さんと他のキャストとスタッフとみんなで一緒に、一つの宝物を生み出せたという気持ちです。それと同時にこの作品は、私の監督人生の転換点となるように思っています。
佐藤 映画は十数分と短いけど、厚みがすごくある。この作品によって堂島の街の人にとっては記憶だったものが記録になったんだよね。その記録を今度はいろいろな人たちが映画という創作物の中で見るということに、とてもつながりを感じるし、それこそがふれあいなんだと思う。
三島 私も、浩市さんを撮らせていただいて、身体的には一切ふれていませんけど、直接ふれる以上に、ずっとふれている感覚がありました。見てくださる方にも、同じ感覚でふれてもらいたいと思います。
佐藤 映画って見る側も撮る側も人とふれあえるものなんです。だからこそ、作品の持つ力が重要になってくる。さっきも言ったように最終的には作品があることによって次につながる関係性ができていくわけだから。お互いに絶対に裏切らないということが約束事になっていて、それが破られた場合にはお互いに「二度とやるか!」となってしまう。映画の作り手にはそういうシビアさや現金な面というのは絶対にあるんですけど、でも、僕はそれが楽しいんですよ。もし、うまくいっていなかったら、今日のこの場もなかったかもしれない(笑)。
三島 ここでこうして御一緒に笑えてよかったです(笑)。撮影では、私もほんとに緊張していましたが、そこにいる全ての人を信じて「用意スタート」をかけました。作品と人を信じ抜く事が私の役割かなと思います。ご一緒に走ってくれた浩市さんが作品をご覧になって「映画の神様いたね」とおっしゃった時、ほんとの意味で浩市さんに“ふれる”ことができたんだなと思いました。
佐藤 僕ね、三島さんが書かれたこの映画の脚本を読んだときに、最初は「これで伝わるのかな?」と思ったんですよ。説明が少ないから。でも、完成した映画は一面的な表現としての受け取り方だけではなくて、見る人によって多面的な受け取り方のできるものになっている。大勢の人にふれてもらえる映画になっているなと。それに、喪失からの自己再生に至る物語として描かれていることも、見た方にはわかっていただけると思います。
三島 再生への道標みたいなものを手繰り寄せていく映画になったらよいなと脚本を書いていました。浩市さんがおっしゃっていた言葉ですが、決して「簡単には夜は明けない。でも、空は白んでいる」んですね。そう言った非常に“微かな光り”に、ふれてもらえたらいいなと思いますし、それを成立させてくださったのは浩市さんの存在です。セリフもたくさんアイデアをいただきましたし、この映画を御一緒に生んでくださり監督として本当に幸せです。ありがとうございます。
『IMPERIAL大阪堂島出入橋』
「MIRRORLIAR FILMS Season2」内で上映
2022年2月18日(金)全国公開
伊藤主税(and pictures)、阿部進之介、山田孝之らが立ち上げた、年齢や性別・職業・若手とベテラン・メジャーとインディーズの垣根を越え、切磋琢磨しながら映画を作り上げる短編映画プロジェクトMIRRORLIARFILMS。オムニバス形式で4シーズンに分けて公開。『IMPERIAL大阪堂島出入橋』は「MIRRORLIAR FILMS Season2」の一篇として上映。35年間店と共に歴史を積み重ねてきたシェフ(佐藤浩市)が再び希望を見出す一夜を、圧巻の長回しで魅せる。
Season2監督陣:AzumiHasegawa、阿部進之介、紀里谷和明、駒谷揚、志尊淳、柴咲コウ、柴田有麿、三島有紀子、山田佳奈
(配給:イオンエンターテイメント)
https://films.mirrorliar.com/
佐藤浩市 さとうこういち 東京都出身。1980年に俳優デビュー。『忠臣蔵外伝 四谷怪談』と『64-ロクヨン-前編』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。その他、数多くの映画やドラマに出演。昨年2021年は『太陽は動かない』『騙し絵の牙』『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』に出演。2022年は出演作の『IMPERIAL大阪堂島出入橋』『20歳のソウル』が公開。キャリア初のヴォーカル・アルバム『役者唄 60 ALIVE』(発売・販売:ユニバーサル ミュージック)も発売中。

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』『よろこびのうた Ode to Joy』などがある。最新監督作の『IMPERIAL大阪堂島出入橋』が2月18日に公開。
ヘアメイク/及川久美(六本木美容室)(佐藤)、市橋由莉香(三島)
スタイリング/喜多尾祥之(佐藤)、谷崎 彩(三島)
衣装協力(三島)/カットソー、トップ、スカート全て132 5. ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ/ ISSEY MIYAKE INC.)
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