久々のオリジナル作品『初恋』を完成させた三池崇史監督。「さらば、バイオレンス」を掲げた三池流“ラブストーリー”だ。
「まあ騙される人、いるかな? と思って(笑)。ラブストーリーといってもいろんなものがあるわけだしね」
開始1分もしないで首が飛ぶ展開に「え?」と驚きつつも、描かれるのは確かにピュアな“愛”。そんな三池ワールドに引き込まれる。
「今、映画館はみんなが安心しに行く場所になっている。同じところで泣けて『おもしろかったね』と言いあえる、安全な場所。でも僕らの子どもの頃の映画館ってそうじゃなかった。独特の闇があって、楽しみではあるんだけど不安もある。もっと映画って何が起こるかわからない楽しさがある。だからこの『初恋』も一つの裏切り。『なんだこれ!?』って思ってほしい」
孤独なボクサーと少女が運命的に出会うのは、ヤクザや中国マフィアが跋扈する歌舞伎町だ。ハードな背景を選ぶには理由がある。
「映画の幅がどんどん狭まってきている。昔、普通に映画に登場していたアウトローたちが映画の中から追いやられて、消えているんです。それはもったいない。役者にはアウトローが似合うんですよ。いろんなタイプがいるけれど、役者って、やっぱり愚かで、自分なりに歌舞いていて、そんな一瞬の刹那が美しい。でもそれが、どんどんできなくなっている。今回、役者たちは、実に生き生きと役を生きていました」
オーディションで大抜擢された小西桜子もしかりだ。
「彼女が入ってきた瞬間に『あ、いけそうだな』と感じた。『遅いよ、来るの!』って(笑)。演技の経験が浅く、そこにいるだけでいっぱいいっぱいだったけど、それこそがモニカという役にピッタリだった」
カンヌをはじめ、すでに世界30ヵ国以上の映画祭を席巻。世界に愛される監督は、日本に蔓延する「不気味さ」を強く感じている。
「例えば中国で仕事をすると、台本も検閲されるし、いろんな制約がある。でもね、なんだか自由を感じるんですよ。検閲された以外は何やってもいいっていう。逆に日本って何をやっても自由、っていうけれど、それって本物なのか? と疑わしい」
「これはあぶなそう」「これはやめたほうがいいんじゃないか」――同調圧力や自主規制の空気は、日本社会に蔓延している。
「もともと日本人にはそういう気質があるしね。だから、なんかエネルギーが感じられないというか。社会的に、法的に正しくても、果たしてそれだけで人は人生を豊かに暮らせるのか? 本当に自由なのか? ってみんな疑問に思い始めているんじゃないかな」
そんな日本社会へ、自分を煽りながら、三池節を投げ続けているのだろうか。
「うーん、そんな大志はないんです(笑)。映画界を変えようとかも思ってない。でも、どんな場所にも必ず隙間やひび割れがある。そこにヒュッと入り込んで観客と通じ合えれば、隙間がパキパキッと杭を打ち込んだように割れるかもしれない。するとビデオ屋の隅にあった作品が全国公開になったり、欧米の監督たちに影響を与えたりするわけです」
今もやってることはVシネマ時代と変わらない、と笑う。
「自分が意図して作っていないものが、遠くの誰かに届いている。知らないところで、自分たちが生んだものが独り歩きしていく。そういうことがあるんです。だから僕には『何かをやってやるぞ!』っていうのではない。まあ、いい加減なんです(笑)」
『初恋』
2020年2月28日(金)全国公開
三池崇史監督によるオリジナルストーリー。余命幾ばくもない重い病に侵されたプロボクサーの葛城レオ(窪田正孝)と、親の虐待から逃れるように街へ流れつき、ヤクザに囚われていた少女・モニカ(小西桜子)は、ヤクザの資金源となる“ブツ”を巡る争いに巻き込まれる。
(配給:東映)
https://hatsukoi-movie.jp/
(C)2020「初恋」製作委員会
三池崇史 みいけたかし 1960年8月24日生まれ、大阪府八尾市出身。今村昌平監督、恩地日出夫監督らの助監督を経て、多くのVシネマの監督を務める。 1995年に『新宿黒社会』で劇場映画監督デビュー。主な監督作品に『十三人の刺客』、『クローズZERO』、『悪の教典』、『無限の住人』、『ラプラスの魔女』など。2月28日に最新監督作『初恋』が公開。