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松本伊代

松本伊代

撮影/Jan Buus
取材・文/小池貴之

松本伊代

松本伊代

 1981年に芸能界デビューを果たした松本伊代。アイドルとして活躍した彼女は、多くの歌番組やバラエティ番組に出演した。

「“昭和”のイメージは歌謡曲。いろいろなジャンルの歌手の方が共演していて歌番組が元気でしたね。芸能界に入る前によく見ていた『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』、そして『レコード大賞』に自分が出演したときは不思議な感じがしましたし、すごくうれしかったです。バラエティ番組でコントをやる時は本番とは違う日にリハーサルがあって。時間を費やして一つの番組を作っていた印象があります。当時は、タレント一人ひとりに楽屋があるわけではなく、大部屋に出演者全員が入っていました。ベテランの先輩方が奥のほうで、新人がドアの近くというポジション。のどの調子が悪い時はいい病院を紹介してもらったりして、先輩とお話をする機会がとても多かったような気がします」

松本伊代

 子どもの頃の“遊び”は、昭和ならではのアナログ感(?)が満載。

「小さい頃は、姉と一緒に遊ぶことが多かったです。覚えているのは、家にあった積み木。積み木をいろいろなものに見立てて野菜やお団子、ごはんのおかずになったこともあったかな? それを新聞紙にくるんだりして“お団子屋さんごっこ”や“八百屋さんごっこ”をしていました。新聞紙を使って遊ぶところが昭和っぽいですよね(笑)。今ほどゲームが盛んだったわけではないので、自分なりに工夫して遊んでいた記憶があります。女の子に人気のおもちゃといえば、私の時代はやっぱり『リカちゃん』。リカちゃんセットは憧れでしたもんね。外で遊ぶことも多くて、バドミントンをしたり自転車に乗って土手を走ったり。天地真理さんの自転車が流行っていて、みんな持っていました。注文してもすぐ手に入らないから、家に届くのが待ち遠しかったですね」

 昭和の思い出はどこかの風景ではなく“匂い”だとか。

「小さい時に住んでいた家の石油ストーブと焼き芋の匂いが、私にとっての昭和かもしれません。近所に売りに来ていた豆腐屋さんのラッパの音やラーメンの屋台が鳴らすチャルメラも懐かしい。家の近所に商店街があったんですけど、私はそこが大好きだったんですよ。いろいろなお店がある中で、特にお気に入りだったのは豆腐屋さん。豆腐を掬ってカップに入れる作業が子ども心に楽しそうに見えたんです。実は私、豆腐屋さんになりたいなと思っていました。友達に話したら、朝は早いし、冬は寒いよって言われて、自分にはムリかなと思いましたけど(笑)。八百屋さんとかでザルの中にお金が入っている感じもたまらなく好きだったんです。あそこからお釣りを取ってお客さんに渡すという動きをマネしたくて。だから、積み木で“○○ごっこ”をやっていたんですよね」

松本伊代

 昭和から学んだ大切なことは「備えあれば憂いなし」。

「私はコンビニがなかった時代を知っている世代。子どもの頃は、おにぎりをはじめ、すぐに食べられるものを常に持っていました。それは、母が私に持たせてくれていたんですよね。ピーナッツ、おせんべい、キャラメル…、ご飯を食べる時間がない時にちょっとつまめるものをという感じで渡してくれました。だから、私も自分の子どもたちに同じことをやっちゃう(笑)。今は、何か欲しくなったらすぐ買えるから嫌がられていますけどね。でも、子どもの頃は当たり前のように持っていたから、大人になった今もバッグに何か入っていないと落ち着かない。もうクセになっているのかもしれません(笑)。チョコレート一つでもいいから食べ物があると安心するし、緊急時にはその食料が家族や自分を助けてくれるかもしれないと思うと、なかなかやめられないですよね」

松本伊代 まつもといよ 1965年6月21日生まれ。東京都出身。1981年のデビュー以降、歌手やタレントとして幅広く活躍。『よ~いドン!』(関西テレビ)、『スイッチ!』(東海テレビ)などにレギュラー出演。自身が選曲した初の自選ベスト『30th Anniversary BEST ALBUM』が発売中。

撮影/Jan Buus 取材・文/宮崎新之

ヘアメイク/川崎香子 スタイリング/森 早和子 衣装協力/grosse、TAFFETA