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小宮山雄飛

小宮山雄飛

小宮山雄飛

撮影/野呂美帆
取材・文/安達 薫

ミュージシャン・小宮山雄飛が自分自身の事を語る新連載。

第2回は、ホフディランのメジャーデビューについて。

 今秋、ポニーキャニオンからメジャー復帰が決定したホフディラン。96年のデビューから99年まで、3枚のアルバムと9枚のシングル、2本の映像作品、小宮山雄飛のソロワーク、ザ・ユウヒーズの作品を発表した古巣に帰ってくる形になる。

「とにかく当時は生意気で。今回ポニーキャニオンに謝るところから始めたいくらい(笑)。僕は大学を卒業してそのままホフディランに就職したようなものだったので、全く社会のことを知りませんでした。当時、僕らの周りのアーティストは、レコード会社といい関係を築きながらも、ビジネス視点での物作りを敵視する“パンク魂”のようなものを持つ風潮もあって。『ミュージックステーション』の出演を決めてきてくれたら、今だったらとても感謝しますけど、当時は『生演奏でないなら出たくないですね』なんて言ってみたり。渡辺くん(ワタナベイビー)は、わざわざ広いスタジオを使いたがったりしましたが、それはプロになれてうれしくて、そのスタジオが使えることを素直に満喫していたみたいです(笑)」

小宮山雄飛

曲のいい・悪いではなく、

いろいろなことで

状況は変わっていく。

 ポニーキャニオン時代は、とにかく多作。

「渡辺くんは昔から作っていた曲のストックがたくさんあったし、僕は曲をきちんと作り始めたばかりだったので、いくらでもアイデアが湧いてくるし、どんどん出したくて。本当はもっと曲はあって、入りきれていないんです」

 96年に発売されたデビューアルバム『多摩川レコード』は、仕掛け満載のユニークなアートワークのアイデアも目を引く。

「学生のような感覚で、デザインはタカちゃん(アートディレクター・光嶋崇氏)と一緒に、『フォントはこれにしよう』とか、そういうところまで手作り。写真はケニーくんという友達が撮って。PVの監督はもちろん入ったけど、こちらから全部アイデアを出して。だから根本的にいわゆる大人の感覚とは違って、濃厚でしたね。それが正解だったかはわからないけど。今でも基本的には変わらないけど、ある程度本業の人に任せられる信頼関係ができたから。ギリギリまでゴーストトラックを入れたり、CDトレイの後ろにも印刷を入れたり、面白いからやらせてもらったけど、レコード会社の苦労や予算を知らなかったからこそできたこと」

 華々しくデビューし、そのまま順風満帆というわけではなかった。

「97年発売のシングル『恋はいつも幻のように』がコカ・コーラ ライトのCMのタイアップ曲に決まりました。あまり語られていないのですが、カップリングの『summer time POP!』は某大企業のCMのタイアップ曲に決まっていたんです。曲の入ったCM映像までできあがっていたのに、とある事情で放送中止になってしまって。20年やっていたらアクシデントはいくらでもあります。曲のいい・悪いではなくて、いろいろなことで状況は変わるんだな、と。でも、巡り合わせなので仕方のないことだと思います」

 この3年間で、ワタナベイビーとの関係性は変わっていったのだろうか。

「デビュー時、僕は22歳で、渡辺くんが27歳。渡辺くんの方が書き溜めている曲数も上だし、僕より上の存在という感じ。ただ、渡辺くんが新作を書くようになると、書きづらくなってきたんですよ。学生時代から書きまくっていたわけだから。ポニーキャニオン時代の後期はまさに渡辺くんが30歳くらいで、大人になる年頃。若い勢いだけではいけない時期になり、いろいろなバランスが変わってきた。年齢をいいことにさぼっていた感じもします(笑)。でも当時はわからなかったですからね。年齢差は絶対に縮まらないですから」

小宮山雄飛

ドラマを観ていた

リアルタイムな

感覚じゃないとできない。

 この時代の気に入っている作品は?

「やはりシングル『恋はいつも幻のように』が充実していましたね。この曲は、アルバム『多摩川レコード』のときにすでにできていたのですが、もっときちんと作ってから世に出そうと、温存しておいたんです。当時のポニーキャニオンの担当者も『これ無茶苦茶名曲だから、絶対CMのタイアップを取るぞ!』と頑張ってくれて、コカ・コーラ ライトのタイアップに。アメリカが好きだから単純にうれしくて。『summer time POP!』と合わせて僕の曲が2曲タイアップの予定だったので、渡辺くんがバランスを気にして、『夢にでてきて』というアルバムに入れるはずの名曲を無理矢理入れて(笑)。図らずも4曲入りの充実したシングルになりました」

 ホフらしい遊び心あふれたこの作品も忘れてはいけない。

「97年発売のシングル『キミのカオ』もよかったですね。アメリカのTVドラマ『ビバリーヒルズ高校白書』の登場人物、ディラン・マッケイ(ルーク・ベリー)の写真を借りてジャケットにして、ディラン役の日本語吹き替えの声優・小杉十郎太さんにナレーションをお願いして。こういうのって当時このドラマを観ていたリアルタイムな感覚じゃないとできないでしょう。今の僕らの感覚だとできないですよ。これはネタとして当たりましたね。逆に96年発売のシングル『マフラーをよろしく』のジャケはハズしたパターン(笑)。僕が雑誌か何かでテングザルを見て、すごいと思っただけで、曲調とも歌詞とも全然関係ないのにジャケットに(笑)」

 現在、制作中の5年ぶりのニューアルバムはどんなものに?

「僕の進化と、渡辺くんの原点回帰の融合という感じで、すごく面白いアルバムになると思います。少なくともこの15年の中では一番いいものになるんじゃないかな? 96年のホフディランを連れてきて、今アルバムを作らせてみるような。そのために渡辺くんに96年に戻ってもらって、逆に僕は現代で進化していて。2人とも96年に戻ったら96年と同じ作品ができちゃうから。デビューアルバム『多摩川レコード』のものすごい勢いを、2017年の土壌で再現するように、単なる今ではないし、単なる昔でもない。音楽は勝負ではないけれど、2017年の土俵に上らせるには、それが一番強い気がします」

 再びデビューし直すかのような心意気に、期待が高まる!

小宮山雄飛 こみやまゆうひ ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブアンバサダー。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュースなど幅広く活躍。ライブ情報など、詳しくは「hoff.jp」へ!

撮影/野呂美帆
取材・文/安達 薫