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安齋 肇

安齋 肇

撮影/Jan Buus
取材・文/宮崎新之

安齋 肇

安齋 肇

「“ブレる”っていうことは“グレる”っていうことと同じくらいいけないことだと思っていますね」と話す、安齋さん。

「ブレるって、決していい表現ではない。ブレて目標が見えなくなってしまうようなことは良くないから。でも写真とかで、ブレていたほうがきれいなことってたくさんあるよね。考えてみたら、ブレるっていうことは、動き出す瞬間のことかも。そう思えばブレていることは、挑戦しようとしていることなのかも知れないですね」

 イラストレーターやアートディレクターとして活躍する一方、ミュージシャンやソラミミストなど、還暦を迎えてなおマルチな活動を続けているが、「いろんな仕事をしていることが、ブレていることと同じかどうかは置いておいて」と前置きしながらも「僕はもう、ブレっぱなしですよ(笑)」と笑う。

安齋 肇

「もちろん仕事はブレてやっているわけじゃないですよ。でも、僕はテクノも、ロックも、演歌も、レコードジャケットの仕事でデザイナーとしていろんなことをやってきました。自分で選択して、あえていろんなことに挑戦して。そんな大げさなことではないかもしれないけど、それがあって今があると思っている。そういう意味ではね、早いうちからブレていたほうがいいんじゃないですかね。大人になってからグレると始末が悪いのと同じで(笑)」

 そして今回、新たな選択として映画監督に挑戦した。企画・原作・脚本は盟友みうらじゅん。そのタイトルは『変態だ』と実に刺激的だ。

「みうらさんが、やりたいことが見つかったみたいで。まったく自分とは離れたものを作りたくなったらしくて、それが映画だった。僕のところに来た時には、原作も主演も映画会社も決まっていたんです」

 初めて映画を撮るとなると、さぞかし苦労も多かっただろうと思いきや、「めちゃくちゃ楽しかった」と声を弾ませる。

「本当のものがどうしても撮りたかった。だから、ドキュメンタリーみたいな撮り方をしたんです。制作陣も役者も脚本があるからなんとなくはわかっているんだけど、ここで何が起こるかわからないような状態。役者さんも迷ったんじゃないかな。本読みもしたけど、現場ではまったく違いますから。私、どこに行けばいいんですか? って感じ。スタッフとこんなふうに撮れますよ、だったらこんな感じにしてみましょう、って現場で相談しながら決めていったんです。何かあっても、結局は最後に叩かれるのは俺だし、初めてだしね(笑)。でも、本当に、これ1本っていう気持ちで撮ったので、遺作と呼んでください! 映画監督は編集も含めて楽しかったから、やれるならまたやりたいですけどね」

安齋 肇

 主人公となる“その男”は、大学で流されるようにロック研究会に入り、そのままズルズルとミュージシャンになる。そして妻子がありながら、愛人とのアブノーマルな関係を清算できずにいるのだ。

「学生の頃ってあんな感じですよね。俺、何かあるはずなのにって思いながら、強いものに流されていく。それで、自己弁護でどんどん嘘をついていって、居場所がなくなる。でもこの人ほど、自分のない自我の強い人っていないんですよ(笑)。流されているようで、本当はずっとブレていない。結局は、それをどこで受け入れるかなんですよね」

 ブレたら輪郭は見えないけど、そのモノ自体はそこにある。そう話す安齋監督。新しいものに向かって動きだしたことを、ブレると評されることはあるかもしれない。だが、それを恐れてはいけないのだ。

『変態だ』
企画、原作、脚本をみうらじゅん、監督を初メガホンとなる安齋肇が担当した、サブカルチャーを代表する2人の手掛ける青春ロックポルノムービー。シンガーソングライターの前野健太をはじめ、月船さらら、白石茉莉奈らが異色作に体当たりで挑む。特別な才能があるわけでもないごく普通の"その男"は、大学で誘われるままにロック研究会に入りバンド活動を始める。やがてミュージシャンになった男は、妻子に恵まれ普通の家庭を築く一方で、学生時代から続く愛人との関係も断てないままだった。(R-18作品)
(配給:松竹ブロードキャスティング アーク・フィルムズ)
http://hentaida.jp/

(C)松竹ブロードキャスティング

安齋 肇 あんざいはじめ 1953年生まれ、東京都出身。イラストレーター、アートディレクターとして数々のキャラクターデザインを手がけ、スチャダラパーや小泉今日子のPV、奥田民生のツアーパンフレットなどが話題を呼ぶ。一方で、「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)でのソラミミストとしても活躍。そのほか、ナレーションやバンドなどマルチな活動を続けている。映画監督としては本作『変態だ』が処女作となる。

撮影/Jan Buus 取材・文/宮崎新之