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小宮山雄飛×清水崇

小宮山雄飛×清水崇

小宮山雄飛×清水崇

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子
取材協力/和食 木ノ下(南青山)

居酒屋を舞台に、ミュージシャン・小宮山雄飛が

ゲストとトークを繰り広げる、第五回。

お酒を飲みながら縦横無尽に語りつくすほろ酔い対談。今回のお相手は事務所が同じマンションというご縁で、何度か対談経験のある「呪怨」の監督・清水崇さん、前編です。

小宮山 ほろ酔い対談と言いながら、僕、今日は耳鼻科の薬を飲まなくちゃいけなくて医者にお酒を止められてるんですよ。
清水 あ、そうなんですか。すみません、僕だけ。
小宮山 清水さん、お酒は?
清水 事務所に自分がアルコール依存症かどうかっていうチェックシートも提出させられたし、最近まで撮ってた映画は「撮影期間中は飲みません」っていう誓約書を書かされていましたからね(笑)。
小宮山 そんなに飲むんですか!?
清水 一人で脚本書く時に、ちょっと飲むと筆が進むときがあって、書けるならいいじゃんって自分に言いわけするうちに、事務所でも朝から平気でガンガン飲むようになって。
小宮山 酔っぱらって影響が出たりはしないんですか?

小宮山雄飛×清水崇

体験しなくていい

恐怖を娯楽にしてるのは

人間だけですよ。

清水 書いてる文章が荒くなったり辛口になったりするんで、それを見かねて誓約書を書かされたんですけどね(笑)。でも、やめようと思えばやめていられるんで。
小宮山 一ヵ月やめられるなら大丈夫ですよ。僕もレコーディングになったらやめますけど、何もなかったら毎日飲んでます。お酒禁止のライブにもコッソリ詰めかえて持って行ったり。
清水 それアル中じゃないですか!(笑)
小宮山 いや、お酒を3日やめられたらアル中じゃないっていうから、大丈夫(笑)。

「恐怖に負けた」
清水 小宮山さんは恐いの苦手なんですよね。前に対談したとき、マイケルジャクソンの「スリラー」も怖かったって言ってたけど。
小宮山 そうなんですよ。でもこないだお化け屋敷のプロデューサーの五味弘文さんという方と番組でお会いして。
清水 あ、知ってる。有名な方ですよね。
小宮山 そうです。それでいやいやお化け屋敷に入ったんだけど、そしたらまぁ~怖かった。でも終わったあと初めての感情が湧いてきて。 五味さんに聞いたお話ですけど、お化け屋敷は自分で歩いてゴールを目指すじゃないですか。怖いのは嫌だけど早く終わらせたいから、どんどん進むでしょ。すると絶対に安全が保証された中なんだけど、恐怖を克服したような達成感が味わえる。だから人はお化け屋敷に来るんですって。で、僕もお化け屋敷から出たとき、まさに自分の苦手なことを一つ克服したような満足感を得ていて、初めて恐怖って面白いなと思ったんです。
清水 なるほどね。確かに体験しなくていい恐怖を娯楽にしてるのは人間だけですよね。 ホラー映画って主人公がわざわざ危険なところに行ったりするじゃないですか。見てる人はよく「行かなきゃいいじゃん!」「ま、お約束だよね」という見方をするけど、そうじゃない。人間はヤバいものに気づいたら、怖いからこそ、自らそこに向かって行ってしまうものなんです。安心したいから。そういう抗いがたい探求心とか冒険心、人間ならではの情動を「リング」の脚本家である高橋洋さんは、脚本のト書きで「恐怖に負けた」という一言で表現していて、すげえなぁと思いました。
小宮山 深いですね。恐怖に負けたら立ち向かえないみたいだけど逆なんだ。

小宮山雄飛×清水崇

結局、自分の力で

どうにもできないことが

恐いんです。

清水 だからそんな場面を撮影しているときに、俳優さんに「あっちへ行かなきゃいいのに。ま、ホラー映画だからいっか」的なことを言われるとカチーンって。「まいっか」と思う映画に出てんじゃねえよ、ってなっちゃう……あ、ヤバイヤバい(笑)。
小宮山 いやいや、それいい話ですよ。清水さんのホラー映画に対する情熱を感じます。それでいうと、僕、閉所恐怖症なんで、飛行機に関する連載をやれないかなと画策中なんです。機内誌とかの連載を持ったら、今まで見えなかったいいことに気がついて、恐怖が克服できるんじゃないかと思って。
清水 カッコいいな。でもそういうことですよね、打ち勝とうとすることによって、新しく見えるものがある。
小宮山 僕、結局、自分の力でどうにもできないことが恐いんです。飛行機も狭いことが怖いんじゃなくて、そこから出られないことが怖い。
清水 あ、僕の知り合いも同じだ。彼はアクション俳優でありアクション監督でもある、身体能力の高い人なんだけど、自分の力でなんともできない状況に陥ると、身体がもう先に反応しちゃうって。エレベーターも苦手だって言ってましたね。
小宮山 分かります。まったく同じ理由で体内も恐いんです。もし手が届かない気管が痒くなったらどうにもできないじゃないですか。それを考えると……。二日酔いも恐いときありますよ。単なる吐き気で気持ち悪いとかじゃなくて、これ、自分の力では治せないんだなって思うとゾッとして。
清水 それでいうと、僕は女の人が怖い。
小宮山 それ……恐いですか?(笑)
清水 恐いじゃないですか。だって惹かれるから。本能って自分の力ではどうしようもないものでしょ? 理性では勝てない欲があって本能に負ける自分が悔しいし、それが恐くもある。あと女性は男がまったく理解できない思考をするのも怖い。
小宮山 でも、まだ飛行機とか体内のどうにもできない感じよりは何とかできそうじゃないですか。
清水 ところが、何とかできそうな人より、何ともできなそうな、理解不能な女の人の方を好きになるんですよ!
小宮山 人間、自分の力では何ともできないことを恐れつつ、逆に求めてる生き物なのかもしれませんね(笑)。
(後編へ続く)

清水崇 しみずたかし 映画監督。'98年に関西テレビの短編枠で監督デビュー。以後、「呪怨」シリーズや「富江re-birth」「輪廻」「魔女の宅急便」などを手掛ける。最新作「こどもつかい」が'17年に公開予定。

小宮山雄飛 こみやまゆうひ ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブディレクター。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュースなど幅広く活躍。ライブ情報など、詳しくは「hoff.jp」へ!

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子
取材協力/和食 木ノ下(南青山)