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竹内結子

竹内結子

撮影/Jan Buus
取材・文/イソガイマサト

竹内結子

竹内結子

「“中村義洋監督の作品です”というお話だったので、“ぜひお願いします”と答えたんです。でも、その後“実は怖い話で”って言われて。『リング』(‘98)で自分が怖がりなことに気づいて以降、その類の作品には触れないようにしていたんですけど、中村監督となら恐怖を克服できるかもと出演したんです。でも、やっぱりダメでした(笑)」
 竹内結子さんがそう振り返るのは、第26回山本周五郎賞に輝いた小野不由美の同名小説を映画化した『残穢(ざんえ)-住んではいけない部屋-』のこと。この作品で彼女は、一般の人の恐怖体験を小説にする作家の「私」を演じたのだ。
「ゾンビは大丈夫なんです。ただ、この世のものでなくなった霊などが出てくるものはダメみたいで。この映画も自分が出ているのに、観たときはあまりにも怖くて、途中から目をつぶってました(笑)」

竹内結子

 ただ、現場で恐怖に脅えることはなかった。
「今回演じた“私”は傍観者のような役で、怖い思いをするのは橋本愛ちゃんが演じた“久保さん”の方。彼女が体験した何もない部屋から聞こえる奇妙な音の秘密を一緒に探しましょうという立場だったから、怖い思いをしなくて済んだのは幸いでした(笑)。それに、普通は自分のリアクションや感情を表に出すことで状況を表現しますけど、今回はほとんどそういうものを出さなくて、あまりにもテンションが低いので大丈夫かな? と思ったぐらい。リアクションをとるのは愛ちゃんで、私はそれを見たり聞いたりして、あぁ、この人はこれを怖がっているんだなって、どこか観察しているような感覚でした。でも、家に帰ってから怖かったシーンがフラッシュバックしてきて、自宅の廊下の灯りを消すときは、パッと消してすぐ扉を閉めるようにしてました」

竹内結子

 映画は竹内さんが演じる「私」の、まるでラジオドラマや『百物語』を読み聞かせるような柔らかなナレーションで観る者を底知れぬ恐怖世界へと、どんどん引きずり込んでいく。
「実はあのナレーションは、撮影に入る前で。役としてのあり方が定まらないときに、中村監督から“とにかく、マイクで拾えるかどうかの小さな声で淡々と話してください。抑揚もなくていい”って言われて。たまに“ここは怖い話を読んでいる風に”という指示はありましたけど、あとはボリュームの調節をしていただけというか、自分でどうにかしたという感覚が何もないんです。あっ、こんな感じなのかな? じゃあ、それでやってみようというやり方でしたし、映像に乗ったときに、どんな印象になるのかということにも考えは至りませんでしたね。だから観たときも、我ながら不思議な感覚がありましたよね」
 竹内さん自身も“きれいな言葉”を意識しているのだろうか?
「なるべく正しい日本語を使おうと思っていますけど、ちょいちょいズレます(笑)。“だって、でも~”ってよく言うし、“要は”という言葉も口癖みたい。私が苦手なのは、“ゲロ可愛い”とか“クソうまい”といった否定するような汚い言葉と褒める言葉が一緒になった表現。褒められている気がしないし、逆に嫌味? って思っちゃう。いまの人たちのああいう言葉にはやっぱり抵抗がありますね」
 そんな竹内さんの言葉のセンスが光ったのは、「『残穢』の続編を作ることになったらどうします?」という質問をしたときのこと。
「作るなら、“浄化編“とか“解決編”みたいな形がいいですね。それで“これであなたもひと安心”とか“住んでもいい部屋”といったサブタイトルをつけてもらいたいな(笑)」

『残穢(ざんえ)-住んではいけない部屋-』
 1月30日(土)全国公開。小説家である「私」(竹内結子)の元に女子大生の久保さん(橋本愛)から手紙が届く。「住んでいる部屋で奇病な“音”がする」というその手紙に興味を持ち調査を開始する「私」と久保さん。それは数々の不幸な事件を紐解くきっかけだった…
http://zang-e.jp/
©2016「残穢(ざんえ)-住んではいけない部屋-」製作委員会

竹内結子 1980年生まれ。埼玉県出身。映画・テレビドラマにと幅広く活躍。観る者をストーリーに引き込む演技で涙も笑いも誘う表現力豊かな女優として第一線で活躍。

撮影/Jan Buus 取材・文/イソガイマサト