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江川達也

江川達也

江川達也

撮影/野呂美帆
取材・文/宮崎新之

漫画家としてヒット作を連発し、

タレントとして鋭いコメントを放つ。

江川達也さんに、お話を聞いた。

週刊少年ジャンプで大ヒットした 「まじかる☆タルるートくん」やドラマや映画にもなった「東京大学物語」など、漫画家としてデビューした当初からヒット作を連発してきた漫画家・江川達也さん。幼い頃からずっと漫画を描いていたものの、漫画家としてプロになることを意識したのはずいぶん後になってからだと言う。

「漫画は小学校の頃から描いていましたが、当時はプロになれるなんて思っていなかった。ただ、自分では俺はプロの漫画家よりも上手い!とは思っていて。どこまでの力があるのか、試す意味で大学生のときに持ち込みをしました。とはいえ、まだその時も漫画家という仕事にリアリティは無かった。それで大学を卒業して中学の教員として働き始めたのですが、その頃になって"絵を描いて仕事をしたい"と思うようになりました。そんなときに、ちょうど本宮ひろ志さんがアシスタントを募集されていて、それでアシスタントになったんです。プロの漫画家になることを意識したのはその頃ですね」

江川達也

“売る”ノウハウを、

掴んでからは

早かった

アシスタントになってから、江川さんはわずか4ヵ月でデビューを掴む。

「アシスタントになってからは猛スピードでした。教員を辞めてアシスタントになったのが(1983年)9月。それで12月に連載することが決まって、翌年1月から描き始めて3月には連載開始でしたから。アシスタントは短い期間でしたが、プロとはどういうものか、それを掴んだのは本宮さんのところでしたね。それまでは、自分のほうが面白く描けると思っていても、読者のことなんて考えてなかった。単純に、そのとき初めて"売る"ことを意識したんですね。そのノウハウを掴んでしまえば、あとは早かった。漫画家になって、まずは"売れるモノ"を描く。それで前半に4作くらい当ててみたんです。自分が描きたいことと、読者が読みたいことは違うから、本当に描きたいことは後からやろう、ってね。ちょっと不景気で、計画通りにならなかった部分もあるけど(笑)」

読者が何を求め、どういう漫画が売れるのか。それをしっかりと狙って、きっちりヒットさせる。漫画家として成功した江川さんは、その後タレントとしても活躍し始める。
「漫画を描いていると、その漫画に引っ掛けて取材が来るんです。それで、デビュー作の頃からちょくちょくテレビに出たりはしていました。一気に増えたのは、『ここがヘンだよ日本人』に出させてもらってからですね。その番組にテリー伊藤さんが出ていたんですけど、テリーさんって結構ムチャクチャやるじゃないですか(笑)。それを見て"あ、それでいいんだ"って思ってしまったんですよ。好き勝手言うようになったら、またさらにオファーを頂いて。そうやって、今の事務所に声をかけてもらったんです。僕が大好きだったアイドルがかつて所属していた事務所で、親近感がありましたから(笑)」

言ってしまえば、

僕は“ダメ出し男”

なんです

テレビでは、コメンテーターとして鋭い見解を述べることもあれば、地図やジャンクションなどのコアな知識を披露することも。

「どんなモノに対しても"俺のほうが面白くできる"っていう信念がある。別のアイデア浮かんじゃうんですよ。テレビで誰かのコメントを聞いても"それは真実を語ってない、俺ならこう言う"、映画を観ても"俺だったらこうするのに"って、別にそうしようと思っているワケじゃなくてもイメージが勝手に出てくる。言わば"ダメ出し男"なんですよ、僕は(笑)。そういう発想の部分の根本は、漫画家としてのものと変わりはないですね」

「仕事に対するスタンスは……"思いつき"かな。趣味がどんどん仕事になっていく。なんと言うか、フラフラといろんな仕事をしているフリーターみたいなものかな(笑)。 それこそ地形や地図が面白いって勝手に思っていたことが、タモリさんとの『タモ江地形クラブ』になって、地形散歩みたいにそのまま仕事になる。ただ、思いつくものはマイナーなものも多いので、流行るかどうかは別ですね。でも、確実に刺さる人はいる。昔は何かを世に出すには資本が必要だったから、みんなの関心の集約を出すしかなかった。でも、今は少ないお金でもいろんなものを出せるようになっている」

「テレビにしろ、音楽にしろ、それこそ漫画にしろ、どんなメディアにしても、今って実はみんな違っていたものを欲しがっていて、それに十分対応できるように世の中がなっているんですよね。なんというか、カスタマイズされた趣味性、とでも言うか。今は誰もがSNSで発信できて、どんなにマイナーなことでも1000人中3人くらいが『いいね!』してくれたらそれで満足できちゃう。そいういう方向に世の中全体が進んでる気がしますね。僕はすごくマイナーだから、そういう部分を今後つきつめて仕事にしていけたらいいかなとは思っています。でも、マイナーな部分ってあまり見せすぎると叩かれちゃうんですよ。だから、ちょっとずつ、ね(笑)」

小宮山雄飛です。江川さんの「仕事に対するスタンスは……"思いつき"かな。趣味がどんどん仕事になっていく」という意見は、ほんとに同感です。ちょうど「好きなことで食べていく本」というのを出そうと関係者と話してたくらい(笑)、僕も日々思っていること、やりたいことがいつの間にか仕事になっちゃっているタイプ。そう書くと、なんか好きなことばっかりやってて楽しくていいなと思うかもしれませんが、日々の生活全てが仕事感覚になってしまうので、それなり大変だったりもするのです。 江川さんと同じように映画を観ていても「ここ、もうちょっとこう…」って思ってしまって集中できない。リゾート地なんかに行っても全然癒されずに帰ってきます。そこら辺を一度江川さんとじっくり話してみたいですね(笑)。

江川達也

江川達也 えがわ・たつや 愛知県出身。1984年に「BE FREE!」で漫画家デビュー。代表作に「まじかる☆タルるートくん」、「東京大学物語」、「GOLDEN BOY」など。一方でタレントとして情報番組などにテレビ出演。映像作品の監督、脚本、演出など多才な才能を発揮している。

撮影/野呂美帆
取材・文/宮崎新之