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YADOKARI

未来住まい方会議

アートディレクターのさわだいっせいとプランナーのウエスギセイタを中心とする「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信する集団。ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウスを通じ、暮らし方の選択肢を提案。主な活動は、『未来住まい方会議』運営、スモールハウスのプロデュース、空き家・空き地の再利用支援ほか。
250万円のスモールハウス『INSPIRATION』販売開始。http://yadokari.net/

YADOKARI

未来住まい方会議

第21回「暮らしの実践者たちに学ぶ」

2017.2.20

小さくても豊かな暮らしをしている人たちがいる。それを発信していくことは、「旗を立てる」ことでもある。旗を目印にして、同じ志を抱えて生きている人たちが、一つの場所に集まれる。一人ではできなかったことが、何人もが集まることで新しく動き始める。

YADOKARIのウェブマガジン「未来住まい方会議」は、代表のさわだとウエスギとが、ファミレスで何気なく交わした会話がきっかけで始まった。さわだいっせいはWebデザイナー、ウエスギセイタはWebプランナー。どちらも建築や不動産の専門家ではない。2人はもともと、同じITベンチャー企業で働く仲間だった。より多くのお金を稼ぐためにがむしゃらに働き、ひたすら上を目指す。その代償として、心がすり減っていくような感覚を得ながら、でもそうやって生きていくのが当たり前だと思っていた。そう、東日本大震災が起きるまでは。身を粉にして働いて、稼げるだけ稼ぎ、家を建てたり車を買ったりして、物質的な豊かさを求める。それが少し前までの成功のかたち。でも、災害が起きてしまえば、築き上げてきた財産は一瞬にして無くなってしまうのだ。津波ですべてを失った人たちをリアルタイムで目にしながら、何もなかったかのように満員電車で通勤を続ける毎日。それは、あまりにもちぐはぐなものに思えてきた。

そんなある日、同業者が集まる飲み会で、仲間の一人が体験講座のある工房の話をした。素人でも図面を引くところから家具作りが学べるのだという。その場では全員で盛り上がったが、講座の当日、工房に現れたのは、さわだとウエスギの2人だけだった。講座は10回ほど続いた。受講後に、2人でファミレスに立ち寄って、日が暮れるまで話すのがいつしか習慣になっていた。

コンテナハウスの話を出したのは、さわだだった。どうやら港でコンテナが余って困っているらしい。コンテナは、規格が定められているから、ある程度サイズが統一されている。それを家として改造したら、船や電車に気軽に載せて、好きな場所にまるごと引越しできるんじゃないか。それはまさに「旅する家」だ。これは面白い! 調べてみると、実際に被災地で、コンテナを仮設住居として使っていることがわかった。さらに「旅する家」はコンテナハウスだけでなく、海外ではトレーナーやキャンピングカーを使っている事例もたくさんあると知った。どんどん集まる情報をどこかにストックしておこう。そんなふうにウエスギは思っていたが、さわだはそれをもう一歩進めて、2人だけのストックにするのではなく、発信してみようと提案した。さっそくFacebookページを立ち上げて、海外事例をコメントを添えてシェアしていく。交代で仕事の後に毎晩更新した。いつしか「いいね!」も増えてきたので、それならコンセプトが伝わるように、ロゴをつくってみようということになった。さわだの描いてきたのは、コンテナハウスを背負ったヤドカリの絵だ。一つの家に縛られず、住まいごと自由に持ち歩ける。そんなイメージは、2人が関心を持ち始めた「旅する家」そのものだ。高まっていくFacebookページへの反響に応えるように、ウェブマガジン「未来住まい方会議」も立ち上げた。「会議」の「会」はたくさんの人と会うこと、「議」はみんなで共に話し合うこと。建物や場所に縛られず、ミニマムな暮らし方をしている人たちを紹介し、これからの豊かさについて語り合う場が誕生した。

インターネットは拡散しやすいメディアではあるけれど、同時に流れて過ぎていってしまいやすいものでもある。手元に残して、じっくりと読める紙の本があってもいい。ウェブマガジンで紹介した事例をまとめた『月極本』(つきぎめぼん)を出版することに決めた。タイトルは、80年代に朝日出版社から発行されていた『週刊本』へのオマージュである。『週刊本』はペーパーバックスタイルで、毎週発行される新書サイズのシリーズだった。「月刊本」という書名も考えたが、月刊で発行するわけではないから、ちょっとふさわしくない。それなら「月極」はどうだろう。「週」から「月」へという時の経過も表せるし、駐車場を連想させるから、みんなで一つの空間をシェアするイメージも持たせられる。自費出版で2000部刷った第1巻は、またたくまに売り切れとなった。

当初、紹介する事例は海外のものがほとんどだったが、次第に国内でも小さな住まいを自分でこしらえ、実際に暮らしている人たちが増え始めていると知った。そこでそんな人たちに直接会いに行き、話を聞いてまとめたのが『アイムミニマリスト』(三栄書房)という本になった。インターネットが発達した今、都会での生活に固執しなくても、地方にいながらできる仕事が増えてきた。物価の安い土地で、光熱費もほとんどかからない小さな家に住めば、生活費そのものが少なくて済む。毎日がむしゃらに働かなくても生きていけるのだ。そんなふうに暮らしている人たちの他にも、都内で会社勤めをしながらも固定した住まいを持たず、カプセルホテルやゲストハウスを渡り歩いているという、びっくりするような身軽な暮らし方をしている人もこの本には登場する。

YADOKARIが会社になったばかりの頃から、その取り組みを本にしたいと連絡をくださっていた出版社があった。5年という歳月がかかってしまったが、2016年3月に刊行できたのが書籍版の『未来住まい方会議』(三輪舎)だ。これまでの本は事例やインタビューがメインだったが、こちらにはYADOKARIが取り組んできた活動や考え方がぎっしりと詰め込まれている。

僕らが旗を立てた「ミニマムな暮らし」という豊かさは、スタンダードな生き方にはならないかもしれない。それでも、物質的な豊かさを追い続ける世の中に疑問を感じている人たちへ向けて、違う選択肢を残すセイフティネットにはなれる。豊かな暮らしの実践者から得た学びを、次の人たちに手渡していく。僕らが立てた旗を中心にして、少しずつでも、そんな豊かさの輪が広がっていくように願っている。

Via:
未来住まい方会議 YADOKARI
http://yadokari.net/

『月極本』
http://tsukigime.yadokari.net/

『アイムミニマリスト』(三栄書房)
http://yadokari.net/works/books-works/48919/

『未来住まい方会議』(三輪舎)
http://3rinsha.co.jp/mirasuma/