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YADOKARI

未来住まい方会議

アートディレクターのさわだいっせいとプランナーのウエスギセイタを中心とする「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信する集団。ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウスを通じ、暮らし方の選択肢を提案。主な活動は、『未来住まい方会議』運営、スモールハウスのプロデュース、空き家・空き地の再利用支援ほか。
250万円のスモールハウス『INSPIRATION』販売開始。http://yadokari.net/

YADOKARI

未来住まい方会議

第20回「リアルなコミュニティの場を自分たちでつくる「BETTARA STAND 日本橋」」

2017.1.20


中央区日本橋の小伝馬町は老舗企業が立ち並ぶビジネス街だ。ビルの狭間に埋もれるようにして、宝田恵比寿神社の小さな社がある。この神社を中心として、毎年10月19日と20日に「日本橋べったら市」が立つ。400から500もの露天が並ぶ、東京の秋の風物詩だ。大変なにぎわいを見せるこの祭りだが、その日を除くと街はひっそりと静まりかえる。そんな街の魅力を向上させ、活性化を図ろうと、YADOKARIによるプロジェクトが始まった。それが「BETTARA STAND 日本橋」である。

BETTARA(べったら)とアルファベット表記すると外国語のようだが、もちろん「べったら市」にちなんだネーミングだ。市で売られるべったら漬けとは、麹と砂糖などで大根を漬けこんだものである。その名の通り、表面には麹がべったりとついている。「運がべったりつく」縁起物だ。江戸時代から親しまれ、十五代将軍徳川慶喜の好物だった。宝田恵比寿神社では、かつての時代の若者が、人混みで縄の先につけたべったら漬けを「べったらだー、べったらだー」と振り回し、参詣する婦人の着物の袖を汚してからかったという話も残っている。

江戸時代中期から続くべったら市は、もともと10月20日の「えびす講」に備えて開かれるものだった。旧暦の10月である「神無月」は、全国の神々が出雲大社に集まる月とされている。しかし、体の不自由なえびす様は出雲まで駆けつけることができず、唯一残って留守番をする「留守神」であり、商家から厚く信仰される商売繁昌の神様だ。日本各地で催されるえびす講では、一年の無事をえびす様に感謝し、商売繁昌を祈願するとともに、親類や知人をもてなす。そのための魚や野菜、神棚などを買い求めるために市が立つようになったのである。中でもこの季節が旬の「べったら漬け」がとてもよく売れたため、やがてそれに特化した市となっていった。

宝田村の鎮守さまであった宝田恵比寿神社は、慶長11(1606)年、徳川家康が江戸城を拡張する際に、住民たちと共に今の場所へ転居を命ぜられた。時は流れてその両脇は駐車場になっていた。市のときだけ提灯が灯り、屋台が立ち並ぶこの場所を、半公民館的なパブリックスペースとして蘇らせたい。それはちょうど「YADOKARIサポーターズ」のメンバーがイベントなどを通してコミュニケーションできるリアルな拠点と合致した。

YADOKARIサポーターズは2016年12月現在、3000人を超えるメンバーで構成されている。建築士やプロダクトデザイナー、編集者など、様々な業種の人々が集うオンライン上のコミュニティだ。暮らしにまつわる活動をプロボノ的に支援したり、メンバー同士で各種部活動を行ったりしている。もともとはオンラインで始まったが、リアルに集い、密度の濃いコミュニケーションを楽しめる居場所が必要だと皆が感じるようになってきていた。運営費はクラウドファンディングで募り、目標金額150万円を突破。べったら漬けを抱えたえびす様をロゴマークとし、「BETTARA STAND 日本橋」は2016年12月2日にグランドオープンを迎えた。


簡素な駐車場だった場所はすっかり様変わりした。提灯に照らされた半野外のイベントスペースは、まさに神社の境内のよう。サポーターズメンバーだけでなく、これまで接点の少なかった地元住民と地元企業の人々が繋がり合える、新しい文化の生まれる場所となった。キッチンスペースは、全国からクラフトビールや日本酒を選りすぐって提供する立ち飲みバー・カフェとして楽しめる。自慢のピェンロー鍋を野外のコタツで囲むのも、まるでお祭りの一場面のよう。イベントスペースやタイニーハウスはレンタルが可能で、ライフスタイルを考えるイベントやワークショップが次々に開催される。住まい方、働き方、出版、アウトドア、食、不動産、地域活性……それらのテーマは、まさにウェブサイト「未来住まい方会議 by YADOKARI」のリアル版だ。


この機動力あるプロジェクトは、「動産」であるタイニーハウスを基本としているからこそ可能となった。新しく建物をつくるのは大変なことだが、自分たちで組み立てられる小さな建物やモバイルハウスなら、期間限定でも気軽に始められる。レイアウトだってフレキシブル。必要なら他の場所に移動させることもできる。短工期で建てられることに加えて、コストもさほどかからないというのも利点だ。BETTARA STAND 日本橋は、コミュニティビルドという方法で建てられている。ワークショップ形式で、サポーターズメンバーや地域住民らが、施工、壁貼り、小屋作りを自分たちの手で行った。DIYが趣味の人もいれば、釘一本打ったこともない人もいる。それでも経験者がサポートすれば、建物だって自分たちでつくることができるのだ。まさに、街と一緒になって創った新しい居場所である。

2020年のオリンピックを控え、資材費は高騰を始めている。宿泊施設が足りないという問題もある。そんな中でYADOKARIは、動産であるタイニーハウスを基盤とし、空き地やデッドスペースを活用した宿泊施設やイベント施設を全国展開していきたいと考えている。自治体や企業と連携することで、さらに日本各地のまちを元気にしていけるのではないか。

インターネットの中から始まったソーシャルコミュニティが、リアルな街のコミュニティで花開き始めた。どんなふうに実際の場と繋がり拡がっていくのか、ぜひともご期待いただきたい。


Via:
BETTARA STAND 日本橋
http://bettara.jp/