FILT

YADOKARI

未来住まい方会議

アートディレクターのさわだいっせいとプランナーのウエスギセイタを中心とする「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信する集団。ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウスを通じ、暮らし方の選択肢を提案。主な活動は、『未来住まい方会議』運営、スモールハウスのプロデュース、空き家・空き地の再利用支援ほか。
250万円のスモールハウス『INSPIRATION』販売開始。http://yadokari.net/

YADOKARI

未来住まい方会議

第18回「まちへ開く暮らし」

2016.11.20

初めての一人暮らしはアパートの1階だった。1階での一人暮らしは、わかってはいたけど怖いことが何度かあって、次は絶対オートロックのマンションにしようと決めていた。でもいざ移り住んでみると、オートロックは安全だけれどなんだか閉鎖的で、閉じ込められているような気分がしてきた。隣に住んでいる人の顔もわからないせいか、壁の向こうから聞こえてくる物音に過敏になってしまう。そんな自分の部屋は、どこか要塞に似ていると思った。壁の内側だけが安全で、その外側はみんな敵のよう。住んでいるまちに、あまり愛着を持てなくなっていた。

プライベートを守るために「個」に閉じて、どんどん孤立していく。かつてあったような近所づきあいは鬱陶しいものだったかもしれないけれど、なにもつながりがなくてはあまりにも寂しい。もっとゆるく、まちで暮らす人たちとつながることはできないだろうか。

そんなまちのつながりを生み出そうとしている建築家がいる。『こっそりごっそりまちをかえよう。』(彰国社)の著者、三浦丈典さんだ。三浦さんの実家は病院だった。そのビルも病院という役割を終え、お母さまが一人で暮らしていたが、普通の住宅としてはあまりにも大きい。実家に戻って暮らそうと考えていた三浦さんは、それでもまだ余りあるビルのスペースをまちに開こうと考えた。リノベーションをして居住スペースの他にオフィスをつくり、近所の人が子どもを連れて気軽に参加できるワークショップを開催する。知り合いを講師として呼び、和綴じ製本をつくる体験をしたり、茶会の作法を学んだり、子ども向けの英会話教室を開いたり。もちろん三浦さん自身が講師になるときもある。たとえば、子どもたちが巻き段ボールで「初めてのマイホーム」をつくるワークショップ。自分の好きなようにつくっていいけれど、出入り口を他の家とつなげるのがルール。自分のためだけにつくった家が、いつのまにか隣の家とつながって、影響し合って新しいものに変化していく。ワークショップのあり方にも、まちと建物をつなげていこうとする三浦さんの考えが見える。

三浦さんの実家のように、子どもたちが巣立った後、大きすぎる住まいに親一人が残るというケースが増えてきているようだ。そんな世帯が増えている大坂の泉北ニュータウンに「グループ・スコーレ」というサークルがある。メンバーは約280名、平均年齢は66歳以上で、最高齢はなんと86歳。それぞれが自宅を会場として開き、得意なことを教える講座を開催する。ときには自分が生徒になって、他の会員のお宅におじゃまする。そんな取り組みは20年前から続いていて、今では一人暮らしの高齢者を見守るセーフティーネットにもなっているという。

自宅を開く行為は、自分の持っているものを差し出すこと。でもそのとき一番恩恵を受けるのは、自分自身かもしれない。寂しさが紛れるだけではなく、「自分は必要とされている」「誰かの役に立っている」という実感を得られる。人間が「社会」という仕組みをつくったのも、そんな喜びを得たいからかもしれない。

実家に戻った三浦さんは始めのうち、育ったまちに対してどこかよそよそしさを感じていたそうだ。一度離れてしまうと、まちにとって自分はよそ者になる。でも家を開いてみると、そんなよそよそしさは消えていった。住まいを開くと、そこは自分だけの要塞ではなく、「まちにある自分の居場所」に変わる。

とはいえ、自宅の全室を解放したり、いきなり知らない人を家に上げたりする必要はない。「住み開き」という言葉を提唱したアサダワタルさんは、著書『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)で、実践している人たちの共通点は「無理せず自分のできる範囲で自分の好きなことをきっかけにちょっとだけ開いていること」だと言う。

まちとの程よい関係を探ってみよう。自分の中に閉じてしまうのではなく、ほんの少しだけ開くだけで、新しい自分の場所が生まれるのだ。

Via:
設計事務所スターパイロッツ
http://starpilots.jp/

本音のエッセイ268号 建築家 三浦丈典さん「小さくて安全な城を超えて」(Wendy-Net)
http://www.wendy-net.com/nw/essay/268.html

空間をまちに開こう!たのしい公共空間のあり方とは(まちの教室)
http://www.naganocampus.net/report/1494

住み開きをはじめて20年! 約60の自宅講座と稼ぐシニアコミュニティをつくる「泉北グループ・スコーレ」利安和子さんのいきがいとは?(greenz.jp)
http://greenz.jp/2016/03/14/senboku_schole/

グループ・スコーレ
http://groupschole.wixsite.com/schole