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YADOKARI

未来住まい方会議

アートディレクターのさわだいっせいとプランナーのウエスギセイタを中心とする「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信する集団。ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウスを通じ、暮らし方の選択肢を提案。主な活動は、『未来住まい方会議』運営、スモールハウスのプロデュース、空き家・空き地の再利用支援ほか。
250万円のスモールハウス『INSPIRATION』販売開始。http://yadokari.net/

YADOKARI

未来住まい方会議

第17回「みんなで働く暮らし」

2016.10.20

満員電車に乗る通勤にうんざりしていた私は、ネットで見つけたライターの仕事を始めた。次第に軌道に乗り始め、これなら暮らしていけるかも? と思えるところまできたから、勤めの仕事を大幅に削って、いよいよフリーランサーとしての船出をしたのだ。最初は、フリーランスの仕事はなんて素晴らしいんだろう! と思っていた。家にいても仕事ができる。寝坊したって、〆切さえ守れば誰からも文句も言われない。けれど、だんだんそう言ってもいられなくなってきた。ずっと家で仕事をしていると、オンとオフの切り替えが難しくなる。昼までだらだら布団の中で過ごしていても誰にも何にも言われないかわりに、〆切がどんどん近づいてくる。結局は自分の首をしめてしまう。

このままじゃいけない。このまま家で仕事をしていたらダメになってしまう。そんなわけで私は、パソコンを持って家を出た。この仕事の良いところは、パソコンとインターネットと電源さえあれば、どこでもできることだ。

さて、どこを仕事場にしようか。個人で事務所を借りるなんてまだまだ夢みたいな話。図書館なんてどうだろうか? 最近はあちらこちらで新しい図書館ができてきて、フリーWi-Fiが使えたり、コーヒーが飲めたりするところもあるみたいだけれど、残念ながら私の町の図書館は古式ゆかしき「お静かに」がモットーの図書館だ。パソコンを使ってもいい席はあるけれど、すみっこで薄暗くて、あんまり居心地いいとはいえない席だし、壁が厚いのか持参したモバイルWi-Fiの電波も届かない。結局は、チェーンのカフェでコーヒーを頼むことになる。

ちょっと前までは「ノマドワーカー」ってかっこいい言葉として使われていたと思う。でも最近じゃ、なんだか胡散臭い目で見られている気がする。「流行りのカフェで格好つけて、コーヒーだけで長居してるヤツ」。そんな冷たい視線を感じないわけじゃない。同じようにパソコンを広げている人はやっぱり常連で、「お互い肩身が狭いですよねえ」と話しかけてみたいような気もするけれど、そんな交流はそうめったに生まれない。フリーランサーは孤独だ。それに、いつもコーヒーばかり頼んでいてはお腹がゆるくなってしまう。

他に良い仕事場は無いだろうかと思ってたどり着いたのが、コワーキングスペースだった。シェアオフィスとは区別して「コワーキング(Coworking)」と呼ぶ場合、もっと手頃な利用料金で気軽に使えて、コミュニケーションが生まれやすい場を指す。例えば、渋谷にある「co-ba shibuya(コーバ 渋谷)」も、そんなコワーキングスペースのひとつだ。co-baを支える考え方は、「デザイン」「シェア」「ローカル」の3つ。パーティションで区切らず、大きな机にしてコミュニケーションが生まれやすいようにする「デザイン」。図書館のようにそれぞれが持つ本や情報を提供しあう「シェア」。まちにひらけて地域と繋がっていく「ローカル」。独りきりでどうにかしようとしていた人々がひとつの場所に集まり、じわじわと繋がっていく。それはやがて新しいビジネスになって発信されることもある。独立すれば独りでも仕事はできるけれど、それだけじゃ淋しい。それに、お互いの得意分野を活かせばもっと新しいことができるし、そのためには新しい繋がりが持てる環境が必要だ。

震災の後の東北でも、新しいコワーキングスペースが生まれた。津波で被災した河北新報の石巻河北ビルを借り受けて常駐の社員を送り出したヤフーは、そのビルを「ヤフー石巻復興ベース」として、地方にはまだまだ少なかったコワーキングスペースをつくった。社外の人も使える新しい場所は、ここでも新たに人と人とを繋ぐ場所になった。仕事をするスペースとして使われるのはもちろん、お母さんたちのパソコン教室の場になったり、Skypeを使ってフィリピンと中継した英会話レッスンの場になったりもしている。IT企業が自社のスペースを解放して、社外の人も使える場所をつくるのはまだまだ珍しいことだ。けれどヤフーでは、2016年9月に移転する東京本社でも、社外の人も使えるコワーキングスペースをつくろうとしている。

新しい時代の働き方に合った、新しい場所。それは、自立した人同士を繋ぐ、新しい乗り物となる。私はこの新しい場所で、どんな新しいものを作り出していけるだろう。


Via:
co-ba shibuya
http://tsukuruba.com/co-ba/shibuya/

シェアードワークプレイス《co-ba》に学ぶ、“コミュニティデザイン”の心得。 (CAREER HACK)
http://careerhack.en-japan.com/report/detail/144

ヤフーが作った、最強コワーキングスペース(東洋経済ONLINE)
http://toyokeizai.net/articles/-/13458

本社移転にあわせ、東京本社勤務の全従業員約5700名を対象に机を不規則に配置したフリーアドレス制の導入や、社外の方も利用できるコワーキングスペースを新設(ヤフー株式会社)
http://pr.yahoo.co.jp/release/2016/06/21a/