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小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブアンバサダー。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュース、食関連の番組レギュラーや雑誌連載も担当するなど幅広く活躍。
詳しくは「hoff.jp」へ!

小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

音楽その22・後編

2017.3.20

昔の音楽界、芸能界というものは、今よりもっと遠くにあったと思います。

ネットどころかテレビもまだ普及してなかった時代は、ミュージシャンのプライベートなんて知る由もなかったわけで、ごくたまに、ショーで見ることのできるミュージシャンは、そこだけが全てだったのです。
だからこそ、観客はその時間に歓喜したのです。
エルビス・プレスリーがステージでちょっと腰を振るだけでも、若い女の子のファンが気絶したりした訳です、だってそここそが全てだから。
テレビやネットでエンターテイメントが溢れかえる今の我々とは、全く違うレベルでステージに食い入って見てたでしょう。だからこそ、ミュージシャン・アーティストのそれ以外のことには寛容だったんです。だって実際関係ないんだから。
私生活がめちゃくちゃだろうと、なにか悪いことをしてようと、ショーという夢のような時間を自分たちに与えてくれれば、その間だけ自分たちを気持ちよく酔わせてくれれば、それでよかったんです。

それがマスメディア、そしてネットの登場により、音楽・エンターテイメントの場はより一般の人の生活に近いところにやってきたのです。

先述したとおり、近くなったといっても実際は2次元での距離に過ぎず、本当は全然離れたところにいる訳ですが、昔よりもミュージシャン・アーティストを身近に感じるようになり、一般社会における常識や良識まで全て同じものを共有しているような感覚に陥る訳です。
なので、画面の向こうのミュージシャンにも、自分たちと同じルールを求めるんです。

ということでボブディランです。

世界的な権威であるノーベル賞からの連絡に答えない。
これは一般的な考えでいったら、どう考えてもおかしなことです。

でもそれはあくまで一般人の、一般常識の世界でのことなのです。
ディランには「関係ない」ことで、また逆に一般人にとってもディランが受け取るかどうかは本当は「関係ない」ことなのです。

今回の一件でディランが権威の逆を行く存在だから賞を断ったなど、様々な憶測が飛んでましたが、僕はそういう思想的なことはあまり関係ない気がします。

音楽の世界、ショーの世界で何十年も活動してきた彼が、今回の一件で表したのは、目の前の真実以外はリアルではない、「どうでもいいことだろ?」ってことじゃないでしょうか。
ミュージシャンが賞を受け取ろうと受け取るまいと、不倫をしてようとしてまいと、そんなことは全部関係のない「答えは風に吹かれている」ことなんじゃないかと。

メディアとネットの登場によって、すっかり全ての人が同じ1つの答え・常識を求められるようになってしまった時代に、生粋のミュージシャンであるディランが疑問を投げかけてくれたような気がします。