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小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブアンバサダー。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュース、食関連の番組レギュラーや雑誌連載も担当するなど幅広く活躍。
詳しくは「hoff.jp」へ!

小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

音楽その15・後編

2016.5.20

前回から日本における音楽の『アウトドア化』について考えていますが、僕はその終着点の一つがロッキング・オン社の主催するイベント『まんパク』なんじゃないかと思ってます。
ご存知の方もいると思いますが、このイベントはもはやロックフェスではありません。ロックフェスで『音楽』とともにもう一つの名物となっていた『食』に焦点を合わせて、様々な食べ物の屋台が集まった食のイベントです。
ひらたく言ってしまえば、あちこちで開かれているフードフェスの一つであるわけですが、大事なことは主催がロッキング・オンであるということです。
ご存知の通り、ロッキング・オンは音楽媒体です。
もともとはミュージシャンを取材して記事にする雑誌社であり、いわば本来はアーティストとレコード会社・イベンター等が作る音楽やライブを「紹介する」媒体だったわけですが、2000年にロッキング・オンは『ロックインジャパンフェスティバル』というロックフェスを立ち上げます。この時点で紹介する側ではなく、主催する側へと変化します。
この立場の変化には当時の様々な状況の変化があったので、一言では言えませんが、乱暴を承知で言うなら、CDを紹介するビジネスよりもフェスを運営するビジネスの方が、より重要なことになったと言えるでしょう。そもそもこの時点でCDの全体売り上げはどんどん下がっていました。下がっているCDを紹介する雑誌ビジネスよりも、アウトドア化して盛り上がって行っているフェスビジネスの方が、将来性があると考えるのは、商売としてはごく自然のことです。
実際この戦略は見事に当たり、ロックインジャパンフェスティバルは年々その規模を拡大していきました。

そんな中でロッキング・オンが正確にどういった考えを持っていたかは分かりませんが、ロックフェスの中の『食』という部分だけでフェスができるんじゃないかと考えて2011年から開催されているのが『まんパク』です。
確かにロックフェスで青空の下でビールと屋台の料理とかを食べるのは美味しいし、とても楽しいですよね、つまりそこの部分だけを取り出したという訳です。
でもちょっと考えてしまうのは、ロッキング・オンが音楽関連の会社だということです。音楽の会社であるロッキング・オンが「なーんだ、音楽無くてもフェスになるじゃん!」と思ったのだとしたら、どうでしょう?
ここが、僕がちょっと不安に思っている『音楽のアウトドア化』なんです。
つまり、ものすごく極端に言えばですが、フェスにより音楽がどんどんアウトドア化していった結果、最終的には一番重要な音楽が無くなり、単にアウトドアになってしまった訳です。
誤解のないように言っておくと、なにもそれが悪いということではありません。
ぶっちゃけお客さん一人一人が楽しければなんでもいいんです。
密室でレコードを聴くのが楽しかったのも、夜な夜なクラブに通うのが楽しかったのも、野外音楽フェスで大騒ぎするのが楽しかったのも、さらには音楽の要素が無くなったフードフェスに行くのが楽しいのも、どれが上とかどれが悪いなんてのは、ないのです。
しかしミュージシャンとして、音楽という側面からだけ見ると、一見、音楽がすっかりアウトドア化した今の方がロックフェスも沢山あり、盛り上がっているようでいて、実はアウトドア化する前の方が、音楽がもっと身近にあったような気もするのです。
CDの売れ行きが下がっていくのとちょうど反比例するように数が増えてきたロックフェスですが、音楽のアウトドア化がこれからの日本の音楽界にどんな影響を及ぼしていくかは、まだ誰も分かりません。