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「“寄り道”という行為に対して、私は前向きなイメージを抱けないというのが偽らざる本音です」と語る壇蜜。その理由をこう明かす。
「小学生の頃、私の通っていた学校は、下校した時間と帰宅した時間を報告する義務があって。下校と帰宅の時間を記入したものに保護者が印鑑を押して、学校に提出しなければならなかった。だから、寄り道=非行という扱い(笑)。寄り道は許されなかった」
 また、他にもこんなイメージを持っているという。
「例えば、昔話などでは、だいたい寄り道すると獣に騙されたり、追いはぎにあったりとかろくなことがない。子どもの頃は誘拐事件のニュースとか聞くと、とにかく怖くて。“もし、自分がさらわれたらどうしよう”と恐れ慄いていた。だから、寄り道禁止の校則にも、なんの抵抗もなく、いつも家にまっすぐ帰っていましたね」
 それは今もあまり変わらないかもしれないと明かす。
「友人や知人と一緒に散歩したり、気になったお店にちょこっと寄ることは、嫌いじゃないですけど、一人のときにどこかへ寄ることはまずないですね。それは、小学校のときと変わらない。自宅と出先を往復している感じです(笑)。慎重派だからか、新しいモノにさほど手を出さないし、新しいスポットやお店に食指が動かないんです。だから、“たまたま寄った店でこれ見つけたんだ”みたいなことを、人から聞くと、その人がちょっとうらやましいです。自分がそうはなれないので」
 しかし、こと仕事に関しては、現在のタレントという職業に就くまでに、様々な“寄り道”を繰り返している。銀座のクラブのホステス、葬儀場のスタッフ、和菓子工場の工員などの仕事を経験。さらに、調理師免許、遺体衛生保全士の資格などを取得した。
「それは、道を模索していたわけではなく、大学のときにちゃんと就職できていたら、こんなことにはならなかったというのが正確なところ。傍からみると、いろいろなことを経験して、結果として今の道が開けたみたいに映るのかもしれないですけど、私、そんなにかっこよくないです。ああでもない、こうでもないと転職を繰り返して。こうした自分の優柔不断な性格や、浮気心が自分の可能性をどんどん奪っていって、身を滅ぼしているんじゃないかと考えていた時期が長かったです。はっきりいうと、まっすぐ歩きたくても歩けない。一本道を歩みたくても歩めなかった。今は、いろいろ寄り道したおかげで、現在の自分があると少し思えるようになりました。それでもまだ、寄り道=死のイメージが払拭できない。加えると、今歩いている道が、自分の歩むべき道、人生の本道かもまだわからないです」
 これからは、今の道から、新しいことが始まる予感があると言う。
「今後、自分がしていく仕事はまず“壇蜜”の名があってから、始まると思います。"壇蜜"の名前を完全に脱却して何かがはじまることはないでしょう。私としては、今いるここがいろいろな道を歩む中で辿り着いた流刑地だと思っています。なので、今後はすべてを、自分の名前の責任のもと、気を引き締めて取り組まないといけないと思っています」
 そして、今となっては、こうも考えられるそうだ。
「紆余曲折の人生を送ってきたおかげで、私は人が恥と思うことも恥と思わないようになりました。恥を隠すのは、自分にプライドや自尊心があるから。でも、そういったものが私にはない。人にどう思われてもいい。だから、この世界で生きていけている気がする。そういう意味ではこれまでの寄り道も悪くなかったなと思います」

壇蜜 だんみつ 1980年12月3日生まれ、秋田県出身。さまざまな職を経て、2010年に壇蜜として芸能界デビュー。数々のグラビアやテレビ番組で活躍。「サンデージャポン」(TBS系)、「壇蜜の耳蜜」(文化放送)などにレギュラー出演中。エッセイ本「壇蜜歳時記」、写真集「あなたに祈りを」が発売中。尼僧妙善役で出演した映画『関ケ原』は8月26日(土)公開。

ヘアメイク/カツヒロ スタイリング/奥田ひろ子

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