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 今も続く人気番組「探偵!ナイトスクープ」の初代探偵など、かつてテレビを賑わせていた越前屋俵太。まだ人気絶頂にある2003年頃から、彼は理由を語らないまま表舞台から姿を消していった。
「“芸能界引退”なんていう記事が踊りましたけど、そんなことはひと言もいってない(笑)。ただ、タレントとしての自分に限界がきてたのは確かですね。今明かすと、プロの誇りをもってやられている方には失礼なんですけど、僕は素人こそかっこいいと思っていたところがある。野球で例えたらプロ野球より高校野球で。負けたら終わり。常に不退転の決意で臨むような真剣勝負で越前屋俵太をやっていた。でも、20年もやってくると変にこなれて器用になる。最初は暴投も気にしないで剛速球1本で勝負してたのが、変化球を織り交ぜて、うまく立ち回るようになる。自分がそうなっていくことが許せなかったんです」
 気づけば山に引きこもってしまっていたと明かす。
「タレントである一方で、僕はクリエイターの領分の仕事もしていましたから、モノづくりへの意識が高いし、自分の作りたいものを自分の思うままに作りたいところがある。ただ、それはタレントという立場では許されないときがある。そうなるとモチベーションが下がってしまう。で、心の中で呟くんですよ。“そんなにつっぱらないで、もっと大人になったら”って。確かにそうできれば楽。でも、そう思ってしまう自分が嫌でたまらない。それぐらい自分に絶望したんです。人間、社会や政治に絶望しているうちはまだましかも。その対象を恨んでおけば済むから。当時、同じ志を持って一緒に仕事をしていた仲間からすると、なんでやめるのか? って思ったと思うんですが、でも、なにより自分を裏切るようなことはしたくなかったし、自分の心に嘘はつけなかった」
 山ごもりは約5年。ただ、振り返るとかけがえのない時間になった。
「例えば自然と草花に目がいく。なにせ山の中なので。で、落葉樹の木を1年見ていると、秋になり葉が色づき、冬にはその葉がすべて落ち、その落ちた葉が腐葉土になって自らの力となり、春になると枝に新芽が芽吹く。当たり前のことかもしれない。でも、そういうのを見ているとルーティーンとか俺は嫌いだったけど、それはそれで力になるかも、とも思ったりして。柄じゃないといわれるかもしれないけど」
 今は一巡して新人に戻ったような気分だという。
「もうプロとかアマとか関係ない。新人のときって、すべてが新鮮じゃないですか。今はそういう気分。だからこの前、“越前屋俵太復活!”とか書かれたんですけど、そうならもう“復活”を楽しんでしまえと。この際、復活を謳って、今年はいろいろと活動していきたいですね」
 最後に、テーマに沿った、こんな言葉を寄せてくれた。
「それを引きこもりと言うかは別として、すべてを遮断して自分と対話をするというか。人生において1度は自分自身と真剣に向き合うことって大切で。特に若い頃にこういう時間を持つのは必要なことなんじゃないかな。でも、いざ本気でやるとしんどい。普段は目を逸らしている部分とも対峙しないといけないから。僕自身も山にこもって最初の2年ぐらいは、ほぼ現実逃避(苦笑)。まともに自分と向き合えない。でも、真剣に向き合ったときに、初めてその先に進めた。『葉隠』に”身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ”という言葉がある。捨て身の覚悟で挑んでこそ窮地を脱し活路を見いだせるといった意味ですけど、まさにそう。すべてを断って、初めて自分の真意が見える。そう考えると、引きこもることも悪くないんじゃないかな」

越前屋俵太 えちぜんやひょうた 1961年生まれ、京都府出身。「探偵!ナイトスクープ」や「世界・ふしぎ発見!」など、数々のテレビ番組で活躍するが、2003年頃から第一線を退くようになる。現在は、書家の俵越山としても活躍中。また、関西大学総合情報学部の客員教授、仁愛大学人間学部の准教授などを経て、現在も両大学の非常勤講師として籍を置き、京都大学デザインスクールのアドバイザーも兼任している。

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