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 俳優として目覚ましい活躍が続く一方で、映画監督や映画コラムの執筆など、クリエイターの顔も持つ斎藤工。俳優業を中心に、いい意味でブレて変化することで新たな才能を発揮しているともいえる彼だが、ストレートに“ブレる”のイメージを聞くと、こう語り始めた。
「日本では、ほぼいいイメージはないですよね。例えば小学校のときに抱いた夢や目標にブレないで一直線に向かっていく。そういう考え方がもてはやされる風潮がどこかにある。でも、夢や目標をなんの弊害もなくストレートに叶えられることなんてそうそうない。大概は、紆余曲折の末、ようやく辿り着くもの。ブレる=ほかに目が行く、とネガティブに捉えられがちですけど、逆にほかを見ることや回り道をすることで、視野が広がったり、新たな可能性を見出せることもある。だから僕自身は“ブレる”ことを必ずしも悪いことだと思っていません」
 実際“ブレる”ことで自身は大きなものを得てきた気がするという。
「ブレるということは、自分に軸があるということだとも思うんです。ブレることで、自分のベースがどこにあるのか明確になる。逆にブレないと、その基軸がどこにあるのか気づかないかもしれない。僕の中で大きなブレを感じた話をすると、理想の映画や共演者が存在するのに、いざ自分が演者としてその現場に立つと、そこをまったく参考にしないときがある。例えば理想の表現者がいて、良さや凄さはいくらでも言うことができるぐらい、自分はその表現者のことを理解している。でも、いざ自分が表現者となって、そうなれるかというとまったくなれない。ただ、そこに到達できないからこそ、自分に生まれるものもある。そこで悪戦苦闘して得たものが、表現者としての個性や力になっている。ある意味、ブレることは成長を促してくれるものかもしれない」
 ブレる=軸が分かる。このことは、最新の出演映画『種まく旅人~夢のつぎ木~』で演じた木村治という人物にも通じるかもしれない。農林水産省の役人であるこの男は、役所でやりたかった仕事をいつからか見失う。ただ、帰省の途中に立ち寄った岡山県赤磐市で、高梨臨演じる彩音ら桃農家との出会いを通して、自分の本来やりたかったことに気づくことになる。彼はブレ=ちょっとした寄り道で、自分のすべきことを見つけることになる。
「治は赤磐という地に外からやって来て、風土やそこで暮らす人々に触れることで、自然と気持ちがリセットされて本来の自分を取り戻す。なにか地方の土地にはそういう力がある気がする。自分もよくあるんですけど、ロケ先の土地にしばらくいると地元民のようになって郷土愛が芽生えたりする。そんな愛着をもってもらえる作品になった気がします」
 続けて、こんなメッセージを寄せる。
「この映画は今回が3作目のシリーズですが、いずれもその地域が自ら映画作りに乗り出してプロジェクトが始動している。そこから地域と作り手側が一体になって作品が生まれ、その地域に光を当てた作品は、いわばその地域の名刺代りというか、顔のような存在になる。こういう映画の生まれ方って健全で作品自体もすごく幸せ。ここまで赤磐の桃のように大切に育てられてきた作品なので、あとはこれを全国に届けたい」
 そして、最後に自身の今後について聞くと、こう語ってくれた。
「俳優の仕事において、自分がひとつのイメージに括られるのは危険。僕も背負ったイメージをどんどん裏切っていかないと、おそらく次のステップはない。そう考えると、この仕事において、ブレて変化するということは、とても重要なことかもしれないと思ってます」
『種まく旅人 ~夢のつぎ木~』
絶賛公開中
日本の第一次産業を応援する『種まく旅人』シリーズの第三弾。佐々部清監督がメガホンをとり、高梨臨と斎藤工が主演を務める岡山県赤磐市を舞台にした青春映画。桃の名産地である赤磐市で、市役所勤めをしながら実家の畑で桃を育てている片岡彩音(高梨臨)と、東京からやって来た農林水産省の若き官僚・木村治(斎藤工)の交流を通して、夢を追うこと、生きることの意味を描く。
(配給:アークエンタテインメント)
http://tanemaku.jp/

(C)2016「種まく旅人」製作委員会

斎藤 工 さいとうたくみ 1981年生まれ、東京都出身。モデルでの活躍を経て俳優に。ドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」「臨床犯罪学者 火村英生の推理」「運命に、似た恋」に出演。また、映画監督としての活動や映画番組のMC、映画にまつわる連載の執筆など、映画好きとしても知られる。出演映画の『種まく旅人 ~夢のつぎ木~』が公開中の他、2017年には映画『昼顔』が公開予定。

ハンドモデル/岡小夜香(SOS所属)
ヘアメイク/赤塚修二(メーキャップルーム)
スタイリング/川田力也(es・QUISSE)

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