人は光だけを浴びて生きることはできない。闇に気づかぬまま生きることなどできない。「人の死の瞬間を見たい」という願望に囚われた少女らの青春と闇を描いた映画『少女』に出演した山本美月は、「闇って言わば過去のトラウマみたいなものですよね。それなら、私にもあります」と、自らの中にある闇を言葉にする。
「そういう闇はなかったことにしています。一時の気の迷いというか、若さゆえの…若気の至りって言うか。まだ山本美月っていう人間ができる前の過程の出来事だから、それは仕方のないこと。だからノーカウント（笑）。いわゆる“墓場に持っていきたいこと”って言うような闇は私の中にもあるんです。でも、映画ほどの重たい闇は、私にはないですね。私が演じた敦子ほどいじめられた経験もないですし、（本田翼が演じる）由紀ほど苦しめられた経験もないですから」

　主人公の少女たちは、イジメや幼い頃の経験が心に暗い闇を落としている。映画の撮影を通して、彼女はかつての自分を振り返った。
「私も映画と同じ女子高だったので、そういう部分は入りやすかったです。高校の頃の私は友達に依存していましたね。何人か居るんですけど絶対的に一緒に居なきゃ嫌で、クラスが変わっても休み時間の度に会いに行っていました。私はマンガが好きなのでそういう話を良くしていましたけど、何か共通の趣味があったから友達になったとかじゃなくて、その友達の持つ空気感というか…依存していた理由なんてないんです。完全に、自分の気持ちだけでした。依存していたな、というのは後になって気付いた感じです。その当時もちょっとはそんな気はしていましたけど、思い返してみるとかなりの依存だったなって」

　少女の心の闇という重いテーマだが、撮影現場は楽しかったという。
「三島監督はとてもお芝居を大切にしてくれる方で、感情のまま演じればいい、セリフを間違えても、泣くって書いてあっても敦子の気持ちになって涙が流れなければ、無理に泣かなくてもいい。嘘で泣いても敦子の気持ちじゃないから。私に寄り添うようにそう言ってくれて、お芝居しやすい環境を作ってくれましたね。そんな現場は初めてでした。あと翼がお芝居についての悩みを率直にぶつけてくれて、共有できたこともうれしかった。そういう悩みって、普通は隠したくなるものだから。思っている感覚も似ていて、翼とは一緒に居て楽でした。クライマックスはお互いに励まし合いながら撮影して、本当に翼とじゃなければできない撮影だったと思います。水に入ったり、走ったり、大変なことも少しはあったけど（笑）、ずっと楽しい現場でした」

　天真爛漫で無邪気な光と、刺されば抜けない棘のような闇が同居する本作。自覚無く吐き出された闇が伝搬し、些細だがジクジクと消えない痛みが胸に残る。そして当事者が当事者と気付かずにストーリーが進み思わぬところで絡まっていく――。彼女は、本作の魅力をこう語る。
「私も翼も、お互いに今まで演じたことのない役柄でしたが、映画の中での2人の関係性は私も高校生の時に同じような経験をしているので、きっと高校生の方は何か感じるものがあるんじゃないかな。青春な部分もありますけど、湊かなえさんならではの世界観が存分に出ている映画なので、伏線を全部見逃さずに回収していただきたいですね」
　闇に触れた少女たちを見守った観客は、事態の驚くべき真相に辿り着く。そしてその時、闇との付き合い方を心得た者だけが、自らをより輝かせる方法を知っているのだと、きっと気付くだろう。