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「ヒロシです」から始まるネガティブトークを繰り出し、「消えそうな芸人ランキングからも消えました」という自虐ネタでおなじみのヒロシさん。彼が昨年夏に出版した日めくりカレンダー『まいにち、ネガティブ。』(自由国民社)が人気だ。カレンダーの表紙には「前向きじゃなくても生きていける」という惹句が踊り、ページをめくると、「限界はある」「ピンチはピンチでしかない」「バカにしているあの人は稼いでいる」などの後ろ向きな言葉が続々と目に飛び込んでくる。
 こんなものを会社のデスク上に置けば、日々の仕事もうまくいかないような気がするが、発行部数はなんと10万部を超え、大ヒットを記録している。
 とはいえ、2004年と2005年には「R-1ぐらんぷり」の決勝に進出するほどの人気者。これらのネガティブ芸は、やはりネタなのではないだろうか。ご本人に直撃するとこんな答えが返ってきた。
「弱ったことに全部ガチ。ネタじゃない。子どもの頃から現在に至るまで、ブレることなくネガティブ人生です」
 芸能人の日めくりカレンダーといえば、ブームに先鞭をつけたのが松岡修造の前向きな言葉が並ぶ『まいにち、修造!』(PHP研究所)。2014年9月の発売以来、累計発行部数が100万部を超えた。
 また、前向きといえば、お笑いコンビ・ノンスタイルの井上裕介も昨年、『まいにち、ポジティヴ!』(ワニブックス)を出版。「ブサイク」「ナルシスト」といった罵りに負けないマインドの強さをアピールしている。
 こうしたカレンダーは、「元気をもらえる」というのがもっぱらの謳い文句だが、そんな風潮にヒロシさんはカウンターパンチを打ち込んだ。
「実際に、R-1ぐらんぷりで決勝に行っても、全然モテませんでした。もちろん僕だってモテたいですよ。でも、暗い男のところに女性は寄って来ない」
 ガッツポーズはしたことがない。ピースサインが気持ち悪い。写真を撮るとき「笑って」と言われるのもイヤ。そんな小学生だった。また、小学校の担任の先生からも嫌われていたという。
「先生って明るい子どもが好きですから。いまだに忘れられないのが、家庭訪問の日に近所の同級生と帰ってる途中に、担任の先生の車が通りかかって。友だちが『家まで送って』と頼んだらすぐにOKしてくれたんです。でも、僕には『乗っちゃダメ』だと。意味が分からないでしょ。こんな話、親には言えませんよね」
 親が厳しかったことも、ヒロシさんのネガティブマインドの育成に関係しているという。
「高校に入ってから、レストランで皿洗いのバイトを始めようとしたら、父親に『チャラいから辞めろ』と言われてしまって。結局、1日中、スコップで穴を掘り続けるという土木作業員のバイトを3年間しました」
 ヒロシさんといえば、売れない時代にホストとして働いていたことでも有名だ。さすがにあの仕事はモテるでしょうと水を向けてみた。
「いや、むしろ地獄でした。手っ取り早く稼げるだとろうと思って始めてみたんですが、よく考えたら、お酒は飲めない、おしゃべりも下手、女性が苦手、という三重苦。しかも、完全歩合制だったので毎月の給料は2、3万円でした。いろんな意味でキツかったなあ」
 見事に暗い話しか出てこない。ネタではなくガチだということがよく分かった。とはいえ、生活の中で癒されることや趣味など、何かあるのでは?
「あっ、キャンプは好きですよ。一人でよく行きますね。コーヒーを飲みながら焚火にあたるのが楽しいんです。あと、自然は誰に対しても平等に接してくれるじゃないですか。そういうところも好きな理由です」
 最後の最後に、初めて笑顔がこぼれた。

ヒロシ ひろし 1972年生まれ。熊本県出身。九州産業大学卒業。芸人。1995年にお笑い芸人としてデビュー。2005年ごろから、ホストの恰好をしながら、「ヒロシです…」から始まる自虐ネタで大ブレイク。DVDやCD、書籍なども発売され、一世を風靡する。2015年に自由国民社より発売された日めくりカレンダー「まいにち、ネガティブ。」が多くの人の共感を呼んで、10万部を突破するベストセラーに。今年上旬には自身のエッセイ本を発売予定。
公式サイト:http://hiroshi0214.com/(ヒロシの部屋)

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