FILT

 今年50歳を迎えた小泉今日子が、「ふきげんな過去」で5年ぶりに主演を務める。彼女の役どころは、W主演の二階堂ふみ演じる果子の伯母・未来子。18年前に死んだはずの前科持ちの女という異色の役だ。
「私としては、未来子は普通の人。爆弾に関して変態なだけで(笑)。一族にこういう変わった人って、1人はいるでしょ。私自身も、一族の中では"こういう人"ですから。死んだと思われていて、小さな世界で伝説になっているけど、割りと普通じゃん、みたいな。果子にとっては『本当のお母さんかも?』って思ってたスゴイ人だったのに、短パンとか履いて隣で寝てるし、普通にソバとか食べちゃってるし、もうホント嫌!って感じでしょうね(笑)。未来子については、役作りっていうよりは……小泉今日子が演じることで、彼女の爆破してきた感じとか、それに対する説得力のようなものが生まれた気がします」
 退屈な毎日に苛立つ果子の不機嫌を、時にかわし、時に真正面から受け止める未来子。果子のように不機嫌な頃があったと、彼女は語る。
「アイドル時代は慣れるまですごく不機嫌だった(笑)。どこに行っても見られていて、握手して、写真とって、色紙が積まれて…。やっと実家に帰ったら、また色紙の山で、『何やってんのよー!』って叫んだりね(笑)。マネージャーにも本当に腹を立てていた。その一方で、外の世界を教えてくれるスタイリストのお姉さんがいて、ライブに誘ってくれたり、バーなんかに連れて行ってもらったりしましたね。ファッションや映画、音楽、本といろんな世界を教えてくれて『私の居る世界なんて、まだまだ入り口だなぁ』って思わされました。そうやって色々と勉強することで、大人への不機嫌を突破できたと思う。知ってさえいれば多分、大人たちに腹も立たない。対等に話せればいいだけなんだから」
 女優をはじめ芸能界の仕事は、カメラや観客の前で感情をコントロールする仕事だ。悲しくなくても涙を流し、うれしくもないのに笑顔を見せる。彼女はそんな芸能界の仕事を、こう捉えている。
「入り口は楽しそうだから入ったのに、抜けられないじゃん!って感じはあるかも。いい意味で欲望を捨てて、鈍感になって。ちょっとおこがましい言い方だけれど『誰かが喜んでくれるなら』という気持ちでなければ、やっていけない時期もありました。自分が生きている理由として、自分のためにこれをやっているとしたら、すべてを終わりにしたくなる。そういう奉仕的な『誰かのために』という感情でないと、続けられなかったかな。女優の仕事も、監督の夢のために、この時期は命を懸けてやろうとか、プロデューサー、演出家のために今できることを全うしようとか。そういう心でいますね」
 奉仕的な感情で求められる小泉今日子を全力で出し続ける一方で、それがどのように使われるのか。本人は一切気にしないという。
「私、自分の写真だけは一切チェックをしないんです。どうぞ、何でも良いですよって(笑)。マネージャーなんかは見てくれるけど。自分の顔を自分で選ぶってさ、なんか悪趣味じゃない? 何か矛盾というか、違和感があって。自分で全部を決めちゃうと、自分の知らない顔にも出会えないんだろうなって思いますね。人が選んでくれた私が、いいものなんだと思います。自分が見せたい小泉今日子っていうのは…特に無いかな。逆に誰にも見せたくない、私だけの小泉今日子。それはガッチリ城壁を作って守っている…かも、知れませんね」
 そう話し終えて、まっすぐな瞳で微笑む。その眼差しは、観るものの心を揺さぶる。女優という仕事は、眠っていた感情を滾らせるものだ。

『ふきげんな過去』
6月25日(土)テアトル新宿ほか全国ロードショー。三島由紀夫賞など錚々たる賞を受賞する異才の劇作家・前田司郎が、小泉今日子と二階堂ふみを主演に迎え監督・脚本を務めた、ひと夏の物語。退屈すぎる毎日を過ごす18歳・果子の前に、突然現れた伯母の未来子。未来子は果子の母の姉で、果子が赤ん坊の頃に爆破事件を起こした前科持ちで、死んでいたはずだった。「しばらく匿ってよ」と言う未来子を居候させることになる。
http://fukigen.jp/
(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

小泉今日子 こいずみ きょうこ 1966年生まれ。神奈川県出身。82年にアイドルとしてデビューし、歌手、女優として活躍。16年に企画製作プロジェクト「明後日」を設立。舞台「日の本一の大悪党」で演出・プロデュースを手がける。
http://www.koizumix.com/

スタイリング/藤谷のりこ
衣装協力/ピアス MARIHA(showroom SESSION)
ブラウス Finders Keepers(THE WALL SHOWROOM)

CONTENTS