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 夏はダボシャツにいなせな雪駄、冬は手ぬぐい生地のハンチングで小粋にキメる…生まれ持った江戸っ子DNAで、和物をさらりと生活に取り入れている寺島進アニキが、男がたしなむべき和物の“粋”を語る新連載がスタートです! 初回のテーマは「手ぬぐい」。
 和の物が好きになったのは、幾つくらいからだろう…まぁ俺が生まれ育ったところが畳屋だから、もうハナから“和”が始まってるっちゃあ、始まってるよな。でも、昔からあるものって日本の気候にあってるんじゃないの? ダボシャツは湿気が多い日本の夏にぴったりで機能的だしね。あと和柄って柄に縁起の意味がかかっていたりして粋でしょ? 俺も粋な男になりたいからさ(笑)。だからポチ袋とか見るのが好きなんだよ。何かのときに粋なポチ袋があったら便利じゃない。それと同じように手ぬぐいも柄も縁起がよくてシャレてるし、万能だからなんか好きなんだよ。

 普段はハンカチ替わりに使ってもいいし、うちのおふくろなんかは大掃除するとき手ぬぐいを頭にほっかむりみたいに巻いてたね。あと、昔の人は怪我したら手ぬぐいをビーって切って巻いて応急処置をしていたらしい。収縮性があるから止血するときに役に立つ。わざと端っこを処理してないのもそのためなんだって。機能的なんだよ。だから持っていても邪魔にはならないだろうと思って、ここ何年かはお世話になった人に年の初めの“お年賀”として配るようにしてるの。
 きっかけは、俺が昔からお世話になってる人がいて…それは浅草にある染物手ぬぐいの「ふじ屋」のご主人なんだけど、たまたま年末にお店に遊びに行ったら、手ぬぐいに熨斗紙をかけて売っているのを発見して「お、いいな」って思ったの。昔は正月になったら年始の挨拶とかでいろんな人がタオルを持って家に来たりしてたじゃない。うちは職人の家だからそういう出入りも多かったし、うちのおふくろが暮れになるとやってた内職を思い出したんだ。










 タオルを畳んで、熨斗紙に包んでテープを張ってビニール袋に入れて…そんなのを段ボールに何個も作ってね。そういう子どものころ見た光景がフッと蘇ったりして。まぁ、タオルじゃなくて手ぬぐいだけど、かさばらないし縁起物としていいじゃない。
 絵柄はご主人が描いたその年の干支と、暦が描いてあるものを2種類買うことが多いんだけど、今年は申年だから猿が三番叟(さんばそう)烏帽子をかぶって歌舞伎をやってる絵柄だった。

 三番叟って、シマシマに日の丸みたいな縦長の帽子。歌舞伎でよく見る、めでたい踊りのときかぶるやつね。更に猿は「難がさる」ってことで厄除け招福として縁起がいいんだって。カレンダーみたいになってる暦の手ぬぐいは、それぞれ季節にちなんだ花も描いてあって、その色がまたきれいなのよ!
 実家でも自分の家でも額に入れて玄関に飾ってあるんだけど、額に入れるのも自分の仕事でね。額の裏板をちょっと濡らして水張りすんだけど、手ぬぐいのシワをちゃ~んと取ってピシッと張り付けるにはコツがいる。初めはナナメになったりして「あー!」って何度も失敗したけど、最近慣れたから仕事が早いね(笑)。

 ふじ屋の旦那さん…川上千尋さんとは昔、百貨店の催事場で江戸職人芸展のアルバイトをしているときに知り合ったの。俺は駄菓子とかブリキのおもちゃコーナーで、子供が来たらベイゴマを回したり紐の巻き方を教えたりする仕事だったんだけど、他に江戸切子とか竹細工とかいろんな江戸の職人さんが来ていて、その流れで出会ったの。千尋さんはそのころからよくしてくれて、俺がいいときも大変な時も、変わらず相談に乗ってくれる恩人。そういや、若いころは「め鯨」の手ぬぐいをもらったこともあるなぁ。これは昔からある絵柄なんだけど「そんなに目くじらを立てて怒りなさんな」って意味らしい(笑)。

寺島進 てらじま・すすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。

寺島進

 身内だけでやった結婚式では、ふじ屋さんのめでたい絵柄の手ぬぐいに日付を染めてもらったものを引き出物に入れた。折々に思い出があって長い付き合いになったけど、それもご縁だよなぁ……。人の出会いはありがたいもんだね。  まぁ、少しでも恩返しをしようって営業に協力する意味もあるんだけど(笑)、でも手ぬぐいは本当にいろんな柄があって、意味も深くておもしろい。これを読んだ人は、今「め鯨」がどんな絵柄か気になってるでしょ? ちなみにこの手ぬぐいは額装したとき横に飾らないといけないんだって。「目くじらはタテちゃいけない」から(笑)。シャレてるよなぁ…手ぬぐいなんて昔のものなんて思わずに、ぜひ一度お店に見に行って、使ってみて欲しいね。

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