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「人と人を繋ぐことを趣味のレベルでさせていただいていまして。ただ趣味と言いましても、人と人を繋ぐ責任は重大ですので、その方の人となりを理解してからでないとやはりご紹介できません。ですから、お相手の方が何を望んでいらっしゃるのかを長い時間をかけてリサーチし、信頼関係を築いてからご紹介するようにしているのですが、国内外でそうしたことに時間を割くことが多くなりました。お引き合わせした方々の夢がいい形で結実し、開花したときに最も幸せを感じるので、この趣味を継続させて、もっと充実させていきたいと思っているんです」
 友人を自宅に招くときも「準備をしているときが楽しい」と微笑む。
「食材にしても例えば鯛をまるまる一尾購入したとしたら、それを昆布締めにしてみたり、(能登在住の輪島塗作家)赤木明登さんのご自宅に伺った際にいただいた自家製のレモン塩を添えた鯛の薄作りが美味しか
ったので、それを真似してみたり。生きた車海老を“酔っぱらい海老”にしたこともあります」
 海外からのお客様をお迎えするときには、必ずしていることがある。
「根津美術館にお連れするのですが、5月にお出でいただいた方には、国宝である尾形光琳の燕子花図の屏風をご覧いただいてから、根津美術館の燕子花をお庭でご覧いただくということをほぼ毎年やっています。プレゼントもその方に寄り添うような物をお贈りしたくて。ご出産祝いを差し上げるときも、先ほどの赤木さんにお願いして、そのお子さんの名前を入れていただいた漆器をお贈りすることがあります」
 そんな中谷さんの最新出演映画『FOUJITA』は、20年代にフランスで活躍し、40年の帰国後は戦争協力画を描いて日本美術界の重鎮に上りつめた画家・藤田嗣治の半生を映画化したもの。『泥の河』
『死の棘』などの名匠・小栗康平が10年ぶりにメガホンを執り、オダギリジョーがフジタを演じた本作で、中谷さんはフジタの5番目の妻・君代に扮している。
「小栗康平監督が10年の沈黙を破りようやく重い腰を上げられたということと、その題材がフジタであるというところに惹かれました。でも小栗監督は物を言わずして高いものを要求される方なんです。映像に本当にこだわられるので、画的にダメなのか芝居がダメなのか、わからないときもある。体の角度がちょっと違うだけで“もう一回”となることもありました。でも、スタッフも全員心地よいくらい監督に付き従っていらして、本当に監督の作品が好きなんだと感じました。日本の映画界は小栗監督のようにこだわり抜く監督には厳しい状況になっていますし実際に寡作な方ですから、ご一緒できて本当にありがたかったです」
「撮影前には自主的にフジタの作品を触れる旅をしてみました。東京の国立近代美術館では『アッツ島玉砕』という戦争画を。また、エッソンヌというパリ郊外の街には、フジタが君代さんと晩年を過ごしたアトリエ兼ご自宅が残されていて。そこにはフジタが自ら縫ったであろう布やベッドカバー、君代さんの名前入りの器が保存されていました。シャンパーニュ地方のランスという街のノートル=ダム・ド・ラ・ペ礼拝堂には映画の最後に出てくるフレスコ画があり、そこには自画像や君代さんの姿も何気に描かれているんです。そんな暮らしぶりや作品を見るにつけ、フジタがただの西洋かぶれの画家ではなく、郷愁のようなものも持ち合わせていた人だったと感じました」
 出演者もスタッフも、作品に心血を注ぐという厳しくも幸せな制作準備期間を経た本作こそ、まさに幸せな作品なのだろう。

「FOUJITA」 カンヌ国際映画祭で賞を獲得し、海外でも評価の高い小栗康平監督の10年ぶりとなる新作。乳白色の肌の裸婦像が人気を呼びフランスで活躍した画家・藤田嗣治。フランスから日本に帰国し戦争協力画に没頭するも、戦後の糾弾に対し責任を取るようにフランスへと舞い戻って行ったフジタの一生と、彼の人生を彩り、かつ支えた女性たちの姿を描く。http://foujita.info/
©2015「FOUJITA」製作委員会/ユーロワイド・フィルム・プロダクション
11月14日(土)角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国ロードショー

中谷美紀 見ている人の内面に深く入り込む演技力はもちろんだが、その日本文化への深い造詣でも知られる女優。数多くのテレビドラマや映画、舞台で活躍。FILTで連載中の三島有紀子監督作品「繕い裁つ人」で主演を務める。最新出演作は「FOUJITA」。

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