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「人生って一寸先は闇ですよね。僕の青春もこれまでの人生も、結構辛いことや過酷なことがたくさんあったんです。ドアを開けたら火事だった…みたいな。だからこそ“人生はシュールに満ちていて、運命のシュールに巻き込まれても、負けるなっていうのがこの映画のテーマかな」
 そうポツリと語る園監督。全国の佐藤さんを抹殺するという小説『リアル鬼ごっこ』から一変、映画版『リアル鬼ごっこ』は、監督が原作のタイトルから受けたインスピレーションを元にオリジナルで作り上げた。全国の女子高生が鬼から抹殺されるという設定だけ聞くと、血しぶきが舞う、園ワールド的グロテスクな一面ばかりを思い出すかもしれないが、実際は作品を観た後には清々しさも残る作品なのだ。
「僕の映画の中の血っていうのはすべて比喩なんです。情熱とか痛みとか渇望とか、そういうものを伝える手立て。だから人間の必死な部分と
か嫌な部分とかも含めて映画にしている。そんな重い部分を観た後は、シュールなことばかり起きる人生から解放される感覚があるかもね」
 仲間が次々に殺されていく中、必死に逃げるミツコ役にトリンドル玲奈が挑んだ。彼女の切実さや純粋さがこの映画を“清々しい青春映画”として昇華させている部分も大きい。
「主演として彼女を座長に据えた時、“死ぬ以外は何でもやります”って言ったんです。いちばん最初の撮影で草むらを走るシーンがあって、何度もテイクを重ねた後、カットの声をかけたら彼女の足が傷だらけで大変なことになっていて。でも、痛いの一言も言わなかったんですよね。久しぶりに“すごい、もしかしたらヤバいかも”と感じたんです。吉高(由里子)や満島(ひかり)みたいな系譜の女優かもと思って、あえて厳しく接していきましたね。伝えればその分だけ響く女優でした」
 今は日本を代表する映画監督の一人、そして女優を成長させる監督としても知られるが、監督としての初めの一歩は『自転車吐息』という作品だ。これは現在、園監督が観光大使を務める地元の愛知県豊川市を舞台に撮影された。そして、この秋公開される映画「みんな!エスパーだよ!」も豊川で撮影したという。
「自分が育ち、25年前に『自転車吐息』の中で自分が疾走した商店街を染谷将太さんに走ってもらうシーンがあったんです。そうしたら何ともいい画が撮れて。映画のレンズという残酷なフィルターを通したらすごく客観的に見えてしまうのですが、それでも良かった。何か土地の持つ磁場のようなものがあるのかもしれませんね。最近、田舎で撮影をしたいと思っているんです。故郷や地方に思い入れなんてないけど、やっぱり忘れちゃいけない何かがあるのかな」
 そう語る園監督は、3.11をきっかけに、『希望の国』という作品を撮影した。そこで起きた出来事を、その土地を、そこに住んでいた人に無関心になってはいけないと、作品を作り上げた。そしてまた今年、新たな作品を福島で撮影したという。
「今回はありのままの“福島という地方”を撮影しました。それから渋谷のハチ公のオブジェを作って、福島の今は人が入れないところに置いてきました。いつかはそこが人々の待ち合わせ場所になればいいなと思っています」
 つい日常に流されて、自分以外、いや、もしかしたら自分自身にも関心を寄せなくなっている鈍感な人間になっているかもしれない。だからこそ園監督の作品を観てほしい。どこを切り取っても切実で誠実で痛い。そしていろんなことに無関心だった自分を傷つけてくれて、自分にも他人にも、どんな場所や物にも血が流れていることを思い出させてくれる。

リアル鬼ごっこ 山田悠介の同名小説タイトルをモチーフに、園子温が完全オリジナル脚本で映画化。全国のJK(女子高生)が見えない鬼たちに次々と殺されていく。一体なぜJKたちは殺されるのか、迫ってくる鬼の正体は――?女優として新たな表情を見せるのは、トリンドル玲奈、篠田麻里子、真野恵里菜など。現在、全国の映画館で公開中。
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園子温 そのしおん 1961年生まれ。愛知県出身。詩人として活動する一方で、映画監督、パフォーマーとしても活躍。作家性の強い「冷たい熱帯魚」「愛のむきだし」など話題作多数。3.11をきっかけに無関心でいることができず「希望の国」を制作。現在公開中の「リアル鬼ごっこ」に続き、9月4日(金)には「みんな!エスパーだよ!」が公開予定。

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