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「50分の間に、あらゆる心象風景を描き切れた作品だと思います。楽曲を集めることでアルバムという体を成しているものも多い中で、物語性も含めてアルバムとして大きな価値を持つ1枚になったかなと」(川島)
「言葉も含めてですけど、映像が喚起されながらストーリーが進んでいくっていう、音楽が奏でられて受け止められていく理想的なプロセスみたいなものが、この作品でできたんじゃないかなと思います」(中野)
 高い評価を獲得している2年ぶりのニュー・アルバムについてこう語るロックバンド、BOOM BOOM SATELLITES。この作品を一聴して感じるのが、命の息吹であり、温もりであり、生きることへの限りない希求だ。デジタル技術を駆使したサウンドでテクノやエレクトロとも呼ばれるBOOM BOOM SATELLITESが、ほかでもない人間性を体現していることに、改めて彼らの音楽の真髄に触れた想いがする。それは今作が川島の3度目、さらには4度目の脳腫瘍の再発を乗り越えて完
成させたアルバムであることと、決して無関係ではないだろう。そして、だからこそのタイトル『SHINE LIKE A BILLION SUNS』なのだろう。
「通常通りと言えば通常通りなんですけれども、あの状況下で通常通りの作業をするのはやっぱりタフなことだったし、よくやり遂げたなって今となっては思います。魔が差せば、すごく大きな恐怖に押し流されてしまうと思うんですよね。実際に魔が差しそうな瞬間が何度かあったし。でも、このアルバムを作り切るという気持ちで日々を過ごすことで、そういった邪念のようなものから救われていたところがありました」(中野)
「生きるとか、日々を過ごすということを続けるには、自分でエネルギーをクリエイトしていかないといけないと思ったんですね。下を向いて暗く生きるのも人生ですが、未来を見ながら上を向いて歩くのも人生だと思うんですよ。それをクリエイトしていこうとする自分自身のエネルギーを、“数限りない太陽=BILLION SUNS”とい
う表現を使って表したかったんです」(川島)
 本誌今号の「新しいことを始めると、人生の登場人物が変わる。」というテーマに寄せるならば、彼らは決して何か新しいことをしたわけではない。いつものように真摯に音楽と向き合い、新しいサウンドを作り上げたのだ。しかしながら、命の瀬戸際で作品を生み出すという、普通ではちょっと考え難い軌跡をたどったことで、これまで見えていなかったものが見えたりしているかもしれない。
「でも結局は、自分がどう生きるかだと思うんですよね。自分がちゃんと立っていればいいんじゃないかなって。テーマの趣旨とは逆になってしまうかもしれませんけど、今の時代は個のアイデンティティが優れていれば、おのずといい社会になると思うんですよ。きっと精神的にも知識的にも磨かれていれば、おのずといろんなところに導いてくれるのだと思います。今後、個人発信のものがどんどん増えていく。この流れは止められないと思うんですよ。そうなると、そこで必要なのは磨かれていく個なんじゃないか
と思うんです。今はくだらないことで炎上したり、情報が垂れ流されて、人として志が低いものをイヤな形で見せられている気分になる。そんな状況の中では新しいところに進むことはできないのではないかなと。だからこそ個がどれだけたくさん優れた知識と考え方を持ち得るか、そういうことが一人一人大切な時代になってくるんじゃないかと思うんです」(中野)
 そしてこれは本当に新しい、また祝福すべきトピック。中野が先ごろ、日本人で初めてMastered for iTunesエンジニアに認定された。
「このライセンスが手に入ることで、Mastered for iTunesのフォーマットでの配信ができる。これから音楽がオンラインで聴かれるっていう流れは変えられないという中で、比較的ライトなフォーマットで高音質の音楽を聴いてもらうことができるというものなので、今後ずっと音楽を作り続けて、ちゃんとその魅力を伝え続けていくためにもよかったと思いますね」(中野)

BOOM BOOM SATELLITES ブンブンサテライツ 中野雅之と川島道行によって結成されたユニット。エレクトロとロックの要素を取り入れた新しい音楽はヨーロッパでブレイク。その後日本でも活躍。妥協のない作品作りは多くのクリエイターたちに愛される。5/5の広島でのライブを皮切りに全国でツアーも行われる。
詳しくはhttp://www.bbs-net.com/

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