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大沢たかお
 じっくりと考え、慎重に言葉を選んで話す。
「歌に込められたやさしさや思い、そういうものがずっしりと伝わってきて。もともとさださんの小説は好きで、全部読んでいました。」
 40年ほど前のアフリカ。長く続くケニアとスーダンの紛争。この危険地帯の病院で3年間治療活動に従事したのが、元長崎大学熱帯医学研究所の柴田紘一郎医師だ。
 彼とアマチュア時代からの知り合いでもあった歌手・さだまさしが、そのエピソードにインスパイアされて作詞作曲、87年にリリースしたのが『風に立つライオン』。
 さらに、この歌に感銘を受けてアクションを起こしたのが、俳優の大沢たかおだ。大沢は、さだの元を訪れて「映画化したいので、まずはこの歌をもとに小説を書いてほしい」と熱く依頼する。
「小説化にあたっては相当苦労されたようですが、できたものはすばらしかった。さださんの作り上げた世界感に震えました」
 大学在学中にスカウトされ、モデルの道へ。やがて俳優に転身。テレビドラマの世界で経験を積んだのち、拠点を映画に移す。
『世界の中心で、愛を叫ぶ』や『解夏』、そして『地下鉄(メトロ)に乗って』などがヒットし、さらに8年ぶりの連続ドラマ出演となる『JIN-仁-』で、日本を代表する俳優へと登りつめた。そして、近年は映画の企画やプロデュースまで手掛けている。さだへの働きかけも、そのひとつだ。歌、小説、映画という順にバトンはつながった。
「もちろん、それぞれは別のもの。三池監督もキャラクターの話はしてこない。でも、役作りについては、たったひとつ、『(航一郎が)血の通った温かみを感じる人に見えるように』という気持ちで演じました」
大沢たかお
 とはいえ、アフリカでの撮影はかなりハードだったという。
「人間が本能むき出しで生きている感じ。現地の子どもたちが役者として大勢出ていますが、こちらが心を全開にしないとコミュニケーションが取れない。みんな必死ですから。主人公の航一郎を演じる上で、『(航一郎が)血の通った温かみを感じる人に見えるようにしたい』と考えていました。その思いは現場の子どもたちやスタッフの方とのコミュニケーションなどから強く感じるようになったのかもしれません」
 物腰柔らかな現在の雰囲気からは想像もつかないが、昔は自分の中で消化できないことに対してなかなか積極的になれなかったという。
「仕事やプライベートなどで海外に出るようになって、いろんなチャンネルがあることを知って。その結果、自分の好きなところも嫌いなところもクリアになったんです」
 ダメな時は無理にあがかないで、チャンネルを切り替える。新しい視点で見つめ直すと、人生の登場人物も変わるのでは、と大沢は自身の経験をもとにそう語る。
「毎日新しい出会いがあるし、そういう人との縁は大事にしたい。自分一人では何も作れないということもわかってきましたし。常に新しいことに取り組む人生じゃないときっと僕は楽しめないのかな」
 とはいえ、納得できないことは今でもたくさんあるという。
「『三つ子の魂百まで』じゃないけど、そういうものが演技の原動力になっている気がしますね」
 映画『風に立つライオン』には、「命のバトンを受け継いでいく」という重要なテーマがある。俳優として、一人の男性として彼はこの先、誰にどんなバトンを渡すのだろうか。

大沢たかお おおさわたかお 東京都出身。モデルとしてデビュー後、様々なテレビドラマでその演技力を評価される。近年は精力的に映画にも取り組む。現在、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』に小田村伊之助役として出演中。主演を務めた『風に立つライオン』は3月14日(土)全国劇場にて公開。
オフィシャルHP(http://www.osawatakao.jp/

ヘアメイク/松本あきお スタイリング/黒田領

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